人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ビル・エヴァンス Bill Evans - 枯葉 Autumn Leaves (Riverside, 1960)

ビル・エヴァンス・トリオ Bill Evans Trio- 枯葉 Autumn Leaves (Joseph Kosma, Johnny Mercer) (Riverside, 1960) : https://youtu.be/r-Z8KuwI7Gc - 6:00

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Recorded at Reeves Sound Studios, New York City, December 28, 1959
Released by Riverside Records as the album "Portrait In Jazz", RLP 12-291, 1960
[ Bill Evans Trio ]
Bill Evans - piano, Scott LaFaro - bass, Paul Motian - drums

 ビル・エヴァンス(1929-1980)が初めて一流ジャズマンと認められたのはマイルス・デイヴィスのバンドのピアニストにレギュラー起用されたのがきっかけですが、マイルスのバンドはジョン・コルトレーン(テナーサックス)始めエヴァンスに先立って増員されていたキヤノンボール・アダレイ(アルトサックス)、コルトレーン同様レギュラー・バンド当初からのメンバーのポール・チェンバース(ベース)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ドラムス)、エヴァンスの前任ピアニストのレッド・ガーランドともエヴァンス以外全員黒人ジャズマンで、マイルスのバンドは黒人ジャズのトップ・バンドと見なされていたので白人ピアニストのエヴァンスの加入は非難の的になりました。黒人ジャズマンの中にはそうした風潮から白人ジャズマンとの交友を避けているミュージシャンもおり、リーダーのマイルスは人間関係にはまったく配慮をしない人で、結局エヴァンスは10か月でバンドを脱退して自己のトリオでの活動を始めるのですが、エヴァンスによるとまったく私語を交わしてくれなかったメンバーもいたそうで、ちなみにアダレイ、チェンバース、フィリー・ジョーとは親友になりマイルスのバンド脱退後も共演していますから最後までエヴァンスによそよそしかったのは誰かが言外に示されているようなものですが、マイルスのバンド脱退後初めてエヴァンス自身のレギュラー・トリオで録音したアルバムが名盤と名高い『ポートレート・イン・ジャズ』'60で、黒人ビ・バップのトップ・ピアニストだったセロニアス・モンクバド・パウエルとも、白人ジャズのクール・スタイルの創始者エヴァンスが師事したレニー・トリスターノともまったく違った新たなジャズ・ピアノのスタイルを確立しました。

 エヴァンスのスタイルは、エヴァンスと同年生まれ・同年デビューの黒人ピアニストのセシル・テイラー(1929-2018)の前衛性とも異なるもので、バド・パウエルが確立し後続のジャズ・ピアニストに指標とされたコード進行の解釈とアドリブ手法をまったく新たな和声解釈によって異なる体系化をなしとげたもので、'60年代~'70年代のうちにジャズ・ピアノの流派はビ・バップ本流のパウエル派に対してエヴァンス派と言うべき流派が定着しました。チャンネル数の多い有線放送などは、ジャズのチャンネルの中にエヴァンス派ピアノのチャンネルがあるほどです。エヴァンス没後には、エヴァンス流のリハーモナイズ手法がいわゆる「ジャズっぽさ」としてポピュラー音楽の中に通俗化して浸透したとも言えます。しかしエヴァンス本人のピアノ・スタイルは聴き返すたびに一聴した柔和な印象よりもずっと硬質で安易な情感・抒情性を排したもので、ジャズ・ピアノ教室で学ぶ女性にはエヴァンスは絶大な人気があるそうですが、エヴァンスのスタイルは決して美しいメロディーとハーモナイズなどという次元で発想されたものではないのが初めてのレギュラー・トリオでの「枯葉」の尖った演奏からも伝わります。それでもエヴァンスの演奏はポピュラリティが高いためにしばらく聴かないともっと穏やかな印象に変わりやすい面があり、初録音から10年経ってフルート奏者のジェレミー・スタイグ(1942-2016)と共演したアルバムではスタイグのハードな演奏もあって改めてエヴァンスの硬質なスタイルが確認できる。生前は白人知性派ピアニストの第一人者のような人でしたが、没後に私生活では破滅型ジャズマンの典型のような人生を送ったと明らかになっただけに、演奏の水面下には極端な二面性があったのが秘められていたような気がします。


Bill Evans And Jeremy Steig - Autumn Leaves (Verve, 1969) : https://youtu.be/rAlNwIaY-MA - 6:12

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Recorded at Webster Hall, New York City, NY, January 30, February 3 & 5 and March 11, 1969
Released by Verve Records as the album "What's New", V6-8777, 1969
[ Jeremy Steig with Bill Evans Trio ]
Jeremy Steig - flute, Bill Evans - piano, Eddie Gomez - bass, Marty Morell - drums