人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

エリック・ドルフィー Eric Dolphy - テンダリー~イッツ・マジック Tenderly / It's Magic (New Jazz, 1962)

エリック・ドルフィー Eric Dolphy - テンダリー~イッツ・マジック Tenderly (Walter Gross, Jack Lawrence) / It's Magic (Jule Styne, Sammy Cahn) (New Jazz, 1962) : https://youtu.be/PTCLwZv1W44 : https://youtu.be/QxKVa8kTYPI - 4:20 (Tenderly) / 5:40 (It's Magic)

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Recorded at The Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, NJ, December 21, 1960
Released by New Jazz / Prestige Records as the album "Far Cry", NJ 8270, 1962
[ Personnel ]
Eric Dolphy - alto saxophone (Tenderly), bass clarinet (It's Magic), Booker Little - trumpet, Jaki Byard - piano, Ron Carter - bass, Roy Haynes - drums

 エリック・ドルフィーチャーリー・パーカーの崇拝者でしたがビリー・ホリデイバド・パウエルの音楽も熱愛していました。名盤『ファー・クライ』'62の冒頭2曲がパーカーに捧げた曲で、ビ・バップの未来型とも言えるような自作曲「ファー・クライ」「ミス・アン」を経てビリー・ホリデイの晩年の専属ピアニストだったマル・ウォルドロンがビリーと共作した(しかしビリーの生前の録音がかなわなかった)バラード「レフト・アローン」があれば、後期ビリーの名盤『ソリチュード』'56のB面最後のスタンダード・バラード「テンダリー」をアルトサックスの完全無伴奏ソロ演奏で取り上げる。「テンダリー」は白人ビッグバンドのピアニストが歌手上がりの男性作詞家と共作した'46年の曲で、オリジナルの男性白人歌手盤はヒットしませんでしたが'47年にサラ・ヴォーン盤が小ヒット、'52年にローズマリー・クルーニー盤が大ヒットしてスタンダード化しましたが、ドルフィーは翌'61年からライヴでもビリーのオリジナル・バラード「ゴッド・ブレス・ザ・チャイルド」を完全無伴奏ソロ演奏するようになりますから(バスクラリネット演奏。アルバム『ヒア・アンド・ゼア』'66)、初の無伴奏ソロになる「テンダリー」でもこのビリーによる録音を意識したでしょう。

 また『ファー・クライ』最終曲になる「イッツ・マジック」は無伴奏ソロの前曲の緊張感を一気に解放するくつろいだバラード演奏で、「レフト・アローン」同様ブッカー・リトルのトランペットは抜けたカルテット演奏ですが、フルート演奏で短調の「レフト・アローン」に対してバスクラリネットのワンホーン・カルテットによる長調のバラード演奏「イッツ・マジック」はアルバム全体のクロージング曲として楽しさにあふれた演奏です。この曲はリトルのボスだったマックス・ローチの夫人の歌手アビー・リンカーンがアルバム・タイトル曲に取り上げており('58年)、同アルバムはリトルもドルフィーも参加していませんがリトルがローチのバンドに加入後にリトル、ドルフィーともリンカーンのアルバムに参加するようになっており、ドリス・デイのデビュー映画『海上のロマンス』'48の主題歌で即大ヒットしスタンダード化していた曲ですが、「恋って最高、まるで魔法ね!」という脳天気なまでにハッピーな曲を宴会芸のように豪快に演奏したこのドルフィーのヴァージョンはバスクラリネットの素っ頓狂な音色が炸裂する、「レフト・アローン」のフルート演奏同様これはトランペット抜きのワンホーンだからこその快演になっています。選曲・録音した時アルバム全体の構成・曲順が念頭にあったかわかりませんが、2日連続・アルバム3作(ジョン・ルイス『ジャズ・アブストラクション』、オーネット・コールマンフリー・ジャズ』、本作)という強行スケジュールでドルフィー参加のこの3作はいずれも名盤なのですから、「テンダリー」~「イッツ・マジック」の流れは3セッション全部のクライマックスだったように思えるのです。

ビリー・ホリデイ Billie Holiday - Tenderly (from the album "An Evening with Billie Holiday", Clef Records MG C-144, 1953) : https://youtu.be/5bVFaROH1us - 3:22
Recorded in Los Angeles, April 1952
Released by Clef Records as the 10' album "An Evening with Billie Holiday", MG C-144, 1953

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Reissued by Clef / Verve Records as the 12' album "Solitude", MG C-690, 1956

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[ Billie Holiday and Her Orchestra ]
Billie Holiday - vocal, Charlie Shavers - trumpet, Flip Phillips - tenor saxophone, Oscar Peterson - piano, Barney Kessel - guitar, Ray Brown - bass, J. C. Heard - drums