人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

レニー・トリスターノ Lennie Tristano - イースト・サーティ・セカンド East Thirty-Second (Atlantic, 1956)

レニー・トリスターノ Lennie Tristano - イースト・サーティ・セカンド East Thirty-Second (Lennie Tristano) (Atlantic, 1956) : https://youtu.be/B0XXiko6QlU - 4:33

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Recorded at Tristano's home studio, New York City, 1954-1955
Released by Atlantic Records as the album "Tristano", Atlantic 73712, February 1956
[ Personnel ]
Lennie Tristano - piano, Peter Ind - bass, Jeff Morton - drums

 曲名はトリスターノが自宅兼スタジオ、音楽教室を開いていたニューヨークのアパートの住所で、'50年前後にトリスターノがステージ・レパートリーにしていたスタジオ録音の残されていない楽曲にも「317 East Thirty-Second」というのがあり発掘ライヴ音源でアルバム化されましたが、「317 East Thirty-Second」はスタンダード曲「Out Of Nowhere」のコード進行を借りた曲でまったく別の曲です。アルバム『鬼才トリスターノ』のスタジオ録音中最後の4曲目になる「イースト・サーティ・セカンド」はスタンダード曲「黄金の雨(ペニーズ・フロム・ヘヴン)」の改作で、原曲は空から小銭が降ってくるというハッピーな曲ですが、ビング・クロスビー主演映画の主題歌でビリー・ホリデイが歌うテディ・ウィルソン楽団のレコードもヒットしたこの明るいスタンダード曲を、トリスターノはなんの恨みか長調の原曲を短調のコード進行に置き換えて、まったく原曲のメロディの断片も出てこないアドリブ大会のインプロヴィゼーション曲にしてしまう。しかも自宅の番地をタイトルにするのは「うちはまったく景気のいい話とは縁がないぞ」と言っているので、この曲「イースト・サーティ・セカンド」も口当たりのいいピアノ・トリオ・ジャズではまるでない無愛想な演奏になっています。創始者トリスターノにとってジャズのクール・スタイルとはそういう無愛想なニュアンスであり、クール・ジャズを標榜したマイルス・デイヴィススタン・ゲッツ、ウェスト・コースト・ジャズのクール・ジャズ派はトリスターノのクール・スタイルとは異なる、ムード的なものでした。アルバム『鬼才トリスターノ』発表の同年、トリスターノに師事した新人白人ピアニストのビル・エヴァンスと、エヴァンスと同年生まれで新人黒人ジャズマンには珍しくトリスターノの影響下にあったセシル・テイラーが奇しくも同月録音のアルバムでデビューします。トリスターノが次のアルバム『ニュー・トリスターノ』'62を発表するまでにエヴァンスとテイラーの両者はもっとも注目されるピアニストになりましたが、トリスターノは同アルバムを生前最後の新作にし、ほとんどライヴすら行わなくなってしまうのです。

テディ・ウィルソン楽団(ビリー・ホリデイ) Teddy Wilson And His Orchestra Featuring Billie Holiday - 黄金の雨 Pennies From Heaven (Arthur Johnston, Johnny Burke) (Columbia/Okeh, 1941) : https://youtu.be/JxVXNWdHDq8 - 3:17
Recorded in New York City, November 19, 1936
Originally Released by Columbia/Brunswick Records as 10'Shellac 78prm, Brunswick 7789, 1937
Reissued by Sony Records as 2CD Compilation "A Portrait Of Lady Day(レディ・デイの肖像)", SRCS 7160~1, 1994

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[ Teddy Wilson And His Orchestra ]
Teddy Wilson - piano, Billie Holiday - Vocal, Jonah Jones - trumpet, Benny Goodman (as "John Jackson") - clarinet, Ben Webster - tenor saxophone, Allan Reuss - guitar, John Kirby - bass, Cozy Cole - drums