人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

昨夜のつづき

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 京都アニメーション放火の晩、まだ詳しくニュースを見る前に再放送中の「SHIROBAKO」を観たばかりだったので、こうしたアニメスタジオの人々が一瞬でガソリン爆発放火殺傷されたんだな(生存者わずか半数、しかも負傷)と陰惨な思いになりました。犯人は面識もない人々相手だからできたので、面識や名前を個別に知っている人々相手だったらできないことです。

 京都アニメーションの被害はさらに1名が亡くなり34人のアニメーター社員死亡、重傷者多数(隻脚切断の重傷者も)ばかりでなく、スタジオ全焼、設備全壊で、資料原画すべて焼失損傷と、会社の制作部門がほぼ壊滅状態の被害にあっていると社長より発表があったようです。
 犯人は数日来スタジオ近辺をうろうろしていて、NHKの取材入りのためセキュリティーが解除されたスキを見て実行したようです。

 プロデューサー、監督らは本社ビルに常駐していて、襲撃されたのは制作専門スタジオですから管理職は助かり、現場のアニメーターが殺傷された。京アニは外からの下請けもするけど自社作品は完全な自社内のスタッフで製作する会社ですから、今後再建するにせよプロデューサー・監督は京アニとしても、スタッフは外注から始めるのを余儀なくされるでしょう。
 これまでの京アニ作品の原盤もすべて焼失したとなると、過去作品の再プレスはすべて「板起こし」リマスターするしかなくなります。

 京アニだからというのではなく、どんな会社だろうと施設だろうと1ビル全焼、70人以上が被災し半数死亡など放火襲撃犯罪としては最悪ですが、京都アニメーションは企画制作内部完成の一貫性でやってきた会社だけに、人員・設備・資材の集中した施設が狙われたのが被害の大きさにつながったのが悲惨です。常駐アニメーターが十数人であとは外注というような制作会社だったらこういう狙われ方はなかったかもしれない。社長や監督、原作者・脚本家、声優が襲われる、というような個人単位の芸能事件みたいな次元(それだってひどいですが、ピストルならばともかく刃物や鈍器類による襲撃なら、逆に特定した人物を狙った場合は犯行時に躊躇やミスが生じ、重篤な殺傷にまではいたらない場合が多いです)ではなく、「特定企業社員への個人による無差別殺人」をどう法的に「裁いて」いくか。
 この場合犯人は「社員無差別殺人」と「施設・設備・生産ライン全破壊」の両方を目的としていますから、人的被害(嫌な言葉です)目的の犯行と物的被害目的の犯行が一緒になっている。「殺傷」「破壊」自体が目的化しているので、動機は怨恨であっても対象は1企業の制作部門ビル全体の無差別殺人・全壊まで拡大している。こうした事件の場合、被害者の位置づけすら難しくなってくる。殺害対象として特定されていないとも言えるから、陰惨な話ですが、殺人被害と事故死の両方に解釈もされます。
 京都アニメーションは社員に当然社会保険を加入させているでしょうし、会社の建物から設備まですべて保険がかけてあるにしても、事態が放火襲撃犯罪ですからその法的決着がつかないと保険会社が動かない、どちらにしても40年近い歴史を持つ京都アニメーションの製作部門の最新インフラと生産ラインは経済的救済では回復できない次元の惨状でしょう。遺族のかたがたが保険金を受け取っても殺害されたかたがたが帰ってきはしない。負傷者のかたがたの扶助に幾分役にたつ程度にすぎません。

 また、昨夜は放火超能力犯罪者と消防隊の闘いを描く夏アニメの新作が急遽放映中止になり別番組の再放送に差し替えられました。この事件の記憶が生々しいうちはアニメからスペクタクル要素として火災を描くのが自粛される流れも考えられる。それも良識ですが、世論をはばかっての自粛の拡大も考えものです。

 「精神疾患者を追跡調査せよ」(犯罪発生率は健常者間の方がはるかに高いでしょうに)やら「異常だが計画的で責任能力あり」「釈放したら再犯する」「だから犯人は極刑」とかそんなことでなく、上記のように今回の事件自体を痛々しく見ています。「法」や「裁き」でいったいどれだけのことが償えるというのでしょう。同社製作の最近のテレビ作品はあまり面白くないなと思っていましたが、それとは別にこうした事件(犯人はジョン・レノン殺害犯と同じタイプの人間でしょう)や事件をめぐる性急な世論には暗澹とした気持がします。

(お借りした画像は本文とは関係ありません)