人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

NHKドキュメンタリー特番「"京アニ"世界に広がる支援の輪」(7/22・火曜晩放映)

 お仕事おつかれさまです。NHKで放映中の京都アニメーション特報番組教えてくれてありがとうごさいます。さっそく観ています。ニュースサイトによると事件はNHK取材のためにスタジオがセキュリティ解いた朝にスキを狙って起こったそうだから、たぶんこのドキュメンタリー番組の制作が大半出来ていて、急遽事件の反響込みで内容を変更し、特急で仕上げて放映することにしたのだろうと思います。

 NHKは運悪く犯人侵入のきっかけ作ってしまったこともあって緊急特別番組「"京アニ"世界に広がる支援の輪」を仕上げて放映してるんでしょうが、どんな会社・施設であれ放火襲撃による死傷者の方が重要なので(それは別のアニメ会社~たとえばジブリだろうがサンライズだろうが、一流出版社だろうがエロ本出版社だろうが、一般企業だろうが闇金だろうが風俗店ビルだろうが映画館やパチンコ屋、学校や入院病棟や老人施設だろうが、むしろ無差別殺害であることが重大さであり、社会的弱者が被害にあうほど事態は深刻になるはず)、京都アニメーションの業績を持ち上げて「有望・才能ある人々の喪失」だとしても、そこらへんの問題のすり替えはまずいでしょう。
 もしパチンコで借金まみれになるほどパチンコ狂の男がちっとも出ないパチンコ屋に怨恨を抱いて早朝から放火襲撃事件を起こして数十人の死傷者が出た。幸いそういう大事件は起こっていませんが、そうした場合NHKは「"庶民の憩いの場"に寄せられる悲嘆」とか、パチンコ屋の文化的伝統やパチンコ台製作所・パチンコ愛好家の衝撃を訴える緊急特番を放映するでしょうか。パチンコ屋だったら「朝からパチンコしてたんじゃな」とニュースサイトにコメントがあふれるでしょうが、「どうせアニメ作ってる会社なんでしょ?」と言う人はいない。そこでは人命は等価という基本的な観点が抜けてしまいます。

 このすり替えがファッショ化すると、たとえば拘置所やヤクザの事務所、重篤精神病棟、在日外国人街(!)に放火襲撃大量死傷者事件などがあったりしたら「放火襲撃はいけないが、社会のゴミと税金の無駄使いを焼き払ってくれたのは良かったかも」なんていうことになりかねません。自分が抑圧される側・弱者の側になるかもしれない・現にそうかもしれない想像力や批判的自覚を持たない世論は、いつも法治権力者の側に立って発言したがるから。

 NHKにとっては償いや区切りの意味もあった特番だったんでしょう。本来ならば京都アニメーションの新作公開に合わせて放映予定で制作を進めていたドキュメンタリーが、制作途中でこんな事件が起きたので急いで世界各国の特派員に緊急追加取材させて「"京アニ"世界に広がる支援の輪」に内容を変更取材してまとめた、ということなのだろうし。おそらく本来ドキュメンタリーは「伝統の地"京都"から世界に支持されるアニメを発信」とか、「ジブリの時代から京都アニメーションの時代へ」みたいな調子の内容で制作途中だったのでしょうが、予定の内容には完成しようもなくなった。区切りというのはそういう意味です。
 始まってから教えられて観たので冒頭5分ほどは観てないのですが、NHK取材を迎えるためにセキュリティを解除されていたスキを狙った事件だった、というのは触れていたんでしょうか。犯人は数日前から犯行の機会を狙っていたらしく近日をうろうろしていたのを目撃されているので、NHK取材を知っていたのか、何らかのスキを狙っていたらたまたまNHK取材で犯行決行の機会ができたのかはまだ供述が取れず判明しませんから、それに触れないのは卑怯とは言えませんが、NHK京都アニメーションのドキュメンタリー制作中さなかの事件だった、というのは触れてもいいはずです。

NHK取材を迎えるためセキュリティ解除されてたスキを狙った事件」なのかどうかはまだ犯人の供述も検察で事実確定も立証もされていないことだから、現時点は触れられなくてもいいでしょう。ただし緊急特番組めたのはNHK京アニドキュメンタリー制作中だった(だから事件前の事前に映像資料やインタビュー映像が揃ってた)というのは明かすのが公平な気がします。「償い」のニュアンスもふくめてね。だってこれじゃ、事件を予期して京都アニメーションの内部取材映像や海外での人気の証言そろえていたみたいじゃありませんか。

 亡くなった34人は司法解剖中、というのも、事件性から仕方ないとして、痛々しくてありません。亡くなったかたがた、遺族も含めて司法解剖に抵抗のある人も多いでしょう。事件性の解明のために司法解剖を免れないのは法執行の手順以前に人権や尊厳の問題です。
 しかしこれが殺害・不審死であるために、責任の所在を明確にするために法執行が優先される。死因と犯行の特定のために司法解剖が免れない。先週木曜朝に事件が起きて晩に死者33名、重軽傷者36名、翌日重篤の一人がさらに亡くなり、そのかたがたは京都アニメーションの近作のクレジットロールにもれなく名前の上がっているかたがたでしょうが、死傷者の氏名もいまだ公表されない。事件がまだ事件と検察庁に認定されていないからですが、ではこの、京都アニメーションのスタッフを讃えた番組はいったい何でしょうか。亡くなった・負傷に遭われたかたがたが判明し遺族の合意を得るまで、本来これは時期尚早なはずです。

 犯人には殺人と放火住建築物破壊の容疑で逮捕状が出ていてニュースサイトでは氏名が公表されていますが、治療中のためまだ逮捕が執行されておらず、逮捕が執行され調書が作成されなければ検察庁が裁判を決定しないので、こちらもNHKではまだ氏名公表を控えている。この緊急特番が時期尚早で、事大主義かつ勇み足なのにあえて放映されたのは、なにかNHKの予防線みたいな意図を感じるのです。いやむしろ、パチンコ屋放火襲撃事件であればパチンコ文化ではなく娯楽施設一般のセキュリティ問題として緊急特番はふさわしいでしょうが、亡くなった・甚大な負傷を負ったのはおおぜいの「人」であって、重大なのはそちらのほうであり、人の命と「京都アニメーションの世界的業績」のどちらを訴えたかったのか、この特番はボタンをかけ違えているのではないでしょうか。