人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

里霧への手紙(別れた妻の回想)

精神障害者生活保護受給者である事情を理解して救済に尽力してくれる親切なスタッフ。福祉機関、そして医療チーム。拘置所をひとりで出てきてから一つ一つ見つけてきたんだ。ほとんど絶望にさらされながら、調べて、たらい回しにされて、それでもたどり着いた。辛抱強く。

先週の訪問看護で率直に躁状態を話した。会いたい女性に会えない。性欲だけでお店に行く。愛している女性ではないから結局フラストレーションがたまっていくが他に手段がないからまた…
「悪循環ですね」
「悪循環でした」
あの時きみの首筋に顔を埋められたら…でもそれはかえってつらいだけだね、ぼくたちは求めあいすぎているから。
きみがまだぼくから別れた妻の回想(「美しい」か?)に当惑し、「でももっと送っていいです」という気持はなんとなく判る。ぼくは客観的に回想しているだけだが、対決してほしいほどおもしろい女だった。きみからすれば「むう」だろう。
きみにしてみれば別れた妻は不可解の塊、ぼくを愛して棄てた女、およそ理解がし難いだろう。愛情の一致、性愛の一致も完全だったのだからなおさらだ。

だからぼくは彼女からの突然の離婚宣告をそのまま受け入れた。ぼくはちっとも離婚したくなかった。娘たち、楽しい生活、友人たちと子どもたち…。
でも妻の提案どおり別居して、知らないうちにDV指定され、印鑑・通帳・結婚指輪を取りに行ったら留置場と拘置所で計4か月はさすがに試練だった。

ホームレスになってたびたび警察に補導され、自分がDV指定だと警告された。ぼくの逮捕は予定されたものだった。
ぼくはこれがすべて彼女の意思なら、と思うと絶えられた。…耐えることができた。

きみが退院してまもなく断酒会の院内ミーティングがあってね。
「…アルコール病棟の潜入ルポルタージュが初めて出たのはやっと25年前です。変わったのはそれから」
視線がぼくに集中。「やっぱりそうだったのか」「どう見てもアル中じゃないもんね」以来退院まですっかり「ルポ書きに取材しにきた偽患者」としてアイドルになってしまった。

里霧はいいんだ。ぼくのうぬぼれだけど、こうなるのはわかってた。

おたがいお酒はほどほどに、ね。

退院から一ヶ月。疲れを感じる。孤独感につらくなる。でもそれは、きみにとってそうあってほしくないぼくではないから。