人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

幻覚、幻聴、妄想(続)

ぼくは部屋の半面に棚のCD本を全部積み上げた。肩の高さに畳2畳分にもなった。これで売り払う準備はできた。明日にはこの部屋を出よう。不倫も行き詰まっていた。ぼくは逃げ出したかった。
翌朝起きるとCDと本は異様な崩れ方になっていた。亀の甲のようなドーム状に鱗のように重なっていた。巨人の手が上からぐるりと回して崩したように。こんな整然とした崩れ方はあり得ない。
ぼくは目覚めるまで変な夢を見ていた。騎馬競争の夢だった。指令される声の通り右折し、左折し、一時停止した。ぼくは自分の枕元にも崩れているCDや本を見て、廊下兼キッチンを見てそこにも壁沿いにいろんなものが整然と散乱しているのを発見した。そこからぼくは妄想の世界に入って行った。
夢を見ている間、ぼくは何か変な香りがするのをいかぶしんでいた。排気ガスの臭い、酢酸の匂い、柑橘類の匂い。これがあの声の正体だったのだ。枕元まで崩れた本やCD、廊下に散らかった小物類を見ると、巧妙にぼくにガスを嗅がせるルートを作っているのが解る。なぜぼくに?
外に出て見てマンションの周囲を調べて唖然とした。同じことがマンションの周囲一周にも起きている。壁沿いに並んだものが、草花に至るまで効果的にガスを循環させるように細工されている。ぼくは2階に住んでいる。マンション裏の駐車場のワゴン車の屋根から2階の廊下に毛布が橋渡ししてある。このワゴン車からだったのか。
部屋に戻ってCDを聴くと、今日は昨晩のような異常な鳴り方はしなかった。空気がほぐれたんだな、とぼくは思った。音響現象について大変な発見をしたのかもしれないぞ。ついでに崩れた本の山も携帯で撮っておこう。
1枚目を見て慄然とした。本棚の隙間を覗きこむ若い女性の後ろ姿が写っている!本棚に目を移した。当然誰もいない。
本棚の隙間に携帯を着けてさらに写した。暗い通路が続き、女性が歩いている。3枚目で彼女は正面を向けた。顔は照明を反射して判別できなかった。
晩にはぼくはひどい状態に達していた。下着のまま入浴して変とも思わなかった。晩酌中に相対性理論の再定義を発見した。被害(陰謀)妄想と幻覚(超常現象)、誇大妄想が1両日の内に発現したのだ。
ふと見ると、布団が燻っていた。火の着いた煙草を置いてしまったのだ。ヤカンで水をかけ、ヤカンを載せて消した積もりだった。
だが布団は燃え続けた。