人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

楽しい現代詩1・祝算之助「町医」

愛読する詩人はキリがないが、日本の詩人をギリギリ3人に絞るなら泣く泣く蒲原有明萩原朔太郎金子光晴三好達治中原中也を落とし、西脇順三郎伊東静雄石原吉郎を選ぶ。鮎川信夫吉岡実没後現役詩人では谷川俊太郎飯島耕一入沢康夫吉増剛造荒川洋治稲川方人伊藤比呂美(堀川正美は?)。現代詩をいくらかでも体系的にお読みの方なら全体的には妥当な人選だと納得いただけると思う。
ただ前記の3詩人に絞ると全然違う!と異議が来そうだ。その通り、全然違う。この3詩人に三富朽葉中原中也を加えた5人(中村稔・荒川洋治稲川方人も)は全集・全著作を繰り返し読んだ。ますます一貫性がない。
だがまず紹介したいのは昭和22年手書き謄写版限定50部の祝算之助詩集「島」より白眉の一篇、「町医」を引く。

夜とともに、町医者はやってきた。家来をつれて。その家来は、たぶん同じ猟好きな仲間ででもあろう。
ちいさな部屋のなかには、黄いろい絵具がべたべたちらかっている。私はどのようにも片ずけきれないのだ。
そのまんなかに、金魚をにぎりつぶしてはなさない子供が、布団にくるまって、欠伸している。まわりの人たちの眼は、いつかぶせようかと、白い布きれを持ちあぐねている。
夜はそこまできた。そして町医は、黒い大きな施療鞄のなかに、子供の生命をたたきこむと、部屋の戸口でささやいた。
《あ、雁だ。雁が飛んでいる》
夜がおんなじことをつぶやいた。家来ははじめからどこにもいなかった。
部屋のなかには、憂愁とかるい安堵がのこされた。人びとは、こごえた指さきを、そっと火鉢の上にかさねて、今夜の霜をかぶった美しい星空のことなど、しずかに語りはじめた。
(一九四六年十一月)

ぼくはこの詩は大学時代に下北沢の老舗古書店でそう高くもない値段で出ていた全詩集「祝算之助詩集」を入手して読んだ。詩人自筆の謄写版の折り込みが入っていた。病床にあるお嬢さんに「お父さんの詩を読んでみたい」といわれ、手元にないので困ったら全詩集の話があった。詩集は出来上がったが「その前に、娘はこの世を去りました。私はどうしたらいいかわからないのです」と折り込みの文章は結んであった。
祝算之助はまず語られない詩人だから(だいたい本が手に入らない)こうして紹介するのも…30年近く前に偶然手に入れた人間のつとめみたいなものだろう。