人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

シルヴィア・プラス

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シルヴィア・プラス(1932-1963)は有望な女性詩人として将来を嘱望された矢先に長年の躁鬱から自殺した。二児の母だった。自伝的小説に「ベル・ジャー」(2004年映画化)がある。紹介する「父さん(Daddy)」は遺稿詩集「アエリアル(Ariel)」(1965)より。アメリカ現代詩の里程標と目される一篇。やや長いので省略は(…)で示した。

あなたはだめ、あなたはもうだめよ、
あなたは黒い靴
その中で30年間、わたしはまるで尼みたいに、
みじめったらしく、血の気をなくして
息を殺し、くしゃみさえ我満して、生きてきた。

父さん、私はあなたを殺さなきゃと思ってた。
だけどあなたは、先に死んじゃった、私が殺す前に
大理石のように重く、神さまが一杯詰まった袋、
一つだけ、まるでアザラシみたいに馬鹿でっかい
灰色の足指をもつ、ぞっとするような彫像

(…)

空には神さまじゃなく、カギ十字のしるし
あまり暗くて、光ひとすじも通れない。
女はみんなファシストに惚れるんだわ、
長靴で顔を踏んづける野蛮な男
あなたみたいな野蛮な男の野蛮な心。

父さん、私が持っている写真では
あなたは黒板の前に立ってる。
つま先じゃなくて、あなたの顎に割れ目が見える
だからってあなたが悪魔じゃないってことにはならない、ましてや
私の綺麗な赤い心臓を

真っ二つに噛みちぎった、あの黒い男じゃないことにはならない。
あなたがお墓に入った時、私はちょうど10歳。
20歳の時、私は死のうとした。
あなたのところへ帰りたい、帰りたいと思って。
あなたの骨だけでもいい、と思って。

(…)

もし私が一人の男を殺したのなら、私は二人を殺したのよ、
あなただと偽って、私の血を1年間、
いえ、本当は7年間、
飲み続けてきた吸血鬼。
父さん、もう安心して、ゆっくり体を休めていて。

あなたの黒い肥った心臓に杭が刺さっている
村人はみんなあなたが大嫌いだった。
みんなは今、あなたの上で踊ったり踏んづけたりしてる。
みんなはずっと知っていたのよ、あなただってことを。
父さん、父さん、父さんのバカ、あなたとはもうおしまいよ。