先に取り上げた高柳重信と並び戦後の前衛俳句を代表する4人の俳人を紹介。前3者は自選10句、急逝(踏切で轢死)した赤尾兜子は代表句を選んだ。詩歌は反響がないので暫くお休みします。
●金子兜太(1919-)
銀行員等朝より蛍光す烏賊のごとく
湾曲し火傷し爆心地のマラソン
華麗な墓原女陰あらわに村眠り
粉屋が哭く山を駆けおりてきた俺に
霧の村石を投うらば父母散らん
暗黒や関東平野に火事一つ
ぎらきらの朝日子照らす自然かな
人体冷えて東北白い花盛り
谷に鯉もみ合う夜の歓喜かな
梅咲いて庭中に青鮫が来ている
●鈴木六林男(1919-2004)
遺品あり岩波文庫「阿部一族」
かなしきかな性病院の煙出
黒青万のドラム缶の一個胃痛む
いつまでも在る機械の中のかがやく椅子
磨かれた消火器の赤明日また会う
遠景に桜近景に抱擁す
凶作の夜ふたりになればひとり匂う
水の流れる方へ道凍て恋人よ
天上も淋しからんに燕子花
満開のふれてつめたき桜の木
●三橋敏雄(1920-2001)
かもめ来よ天金の書をひらくたび
寒蝉やわが色黒き妹達
いっせいに柱の燃ゆる都かな
鈴に入る玉こそよけれ春のくれ
たましいのまわりの山の蒼さかな
海へ去る水はるかなり金魚玉
長濤を以て音なし夏の海
戦争と畳の上の団扇かな
家毎に地球の人や天の川
撫でて在る日のたま久し大旦
●赤尾兜子(1925-1981)
生姜噛み噛んでは若き河に入る
硝子の側にても脂肪のなき桃よ
硝子器にレモン滴らす若き深寝
ブランコ軋むため傷つく寒き駅裏も
蚊帳に寝てまた睡蓮の閉づる夢
鉄階にいる蜘蛛智慧をかがやかす
音楽漂う岸侵しゆく蛇の飢
広場に裂けた木塩のまわりに塩軋み
空鬱々さくらは白く走るかな
大雷雨鬱王と会うあさの夢