人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

真似句亭日乗(5)出版業界の回想4

フリーライターの仕事は慣例では依頼に当って金額は提示されない、と既に書いた。ぼくは編集経験者だったから、だいたいの見当はつけることができた。しばらくはきびしいぞ、とうんざりもした。自宅の机の横の壁にスケジュール表を貼り、版元と掲載誌・月号にギャラの予想を書き込む。安定するまで半年かかるだろう。半年なら、これから始める水商売としてはまだマシな方だろうか?
これも慣例で、雑誌の仕事は外注(イラストレーター、レイアウター、ライター等をそう総称する)へのギャラ振り込みは仕事から最短でも3か月後になるのだ。月号の翌月が慣習になる。具体的に例を挙げると、4月に5月発売される6月号の制作をし、ギャラが振り込まれるのは7月になる。これはキツかった。友人3人から10万円ずつ借りて、最低限の生活費でやりくりし、ギャラが毎月入るようになってからひとりずつ一括で返済した(その後、彼らに借金を申し込まれて返礼の気持もあって貸した。友人にお金を貸すと金も友人もなくす、という通りになった)。

モデルやカメラマンにはいわゆる「撮っぱらい」(現場で即金)も多い。スタジオ代金は即金。カメラマンとスタイリストには即金ではない場合もある。規模の大小による場合もあれば、双方の都合による場合もある。ライターが泣きついて即金にしてもらった話は聞かない。
黙ってお店を開いているのでは顧客が増えないから、人に紹介してもらう。紹介があればかなり仕事にありつける可能性は高いが、紹介なしの飛び込みで相手にしてもらえるのは漫画家・イラストレーターくらいだろう。レイアウターはクォリティは当然としてきちんと納期を守れる人か保証人(紹介者)がいる。ライターも同様で、社交性があって機転がききクールで敵味方をつくらない人という面倒な適性があるので、やはり紹介者がいないと、使ってもらえる場合でも大した仕事はまわしてもらえず、割に合わない。
他社同士でも編集者は外注やカメラマンを通したり、版下製作所や板橋(凸版印刷)か市ヶ谷(大日本印刷)で知りあったり、他社での元同僚から編集者の環みたいなものがあって、そこでぼくは当初から直接の依頼や紹介を受けていた。前回に書いたようにぼくはフォト・セッションからレイアウト・デザイン、ネーム(本文記事)まで雑誌1冊をまるごと造るというとんでもない仕事をしていた。