人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

真似句亭日乗(9)出版業界の回想8

「社交性があって気転が効き、敵味方を作らずクール(笑)。そんな人ならどんな職業でも成功しそうな気がしますが(笑)」
「ぼくも苦笑します。現実にぼくにその資質があったのではなく、そうあることを求められる稼業に就いてしまったのです。ぼくはあたう限りそのペルソナをかぶり通したと思います。ストレスもまた多大でした。
半年でお金も返し、安定したのは完全に筆1本で始めた割には最短距離でした。勤めているうちからコネクションを作っておき、勤めの傍らアルバイトの範囲で他の事務所の仕事も受け、取引先を確保してから独立するのがフリーライターでもレイアウター(デザイナー)でもフリーエディター(ぼくはいずれも兼ねていました)でも、勤め人からフリーに独立する際の常套、経済的にも無理のない手段です。ぼくは取引先にとってとても便利な一匹狼、無理も承知のお座敷芸者でした。なにしろライターになる気などなかった、というかまるで思いつかなかったんだから」
「労働基準や賃金基準等はないんですか?」
「金額未詳のギャラの振り込みまで最短でも3か月、さらに延びる場合もあります。早いことはまずありません。その号の校正まで完了してから編集者が各自の担当ページの外注支払い金額を仮伝票にまとめ、編集長が調整して編集局長にまわし、そこで決定されて経理事務が正式な伝票を作成します。4月制作→5月に6月号発行→7月にギャラ振り込み。友人たちにお金を借りて乗りきったのもやむを得ませんでした。その間ぼくは無収入だったのです。
文筆家にも出版関係の健康保険などはありますが、ユニオンに当るものはありません(印刷所にはあります)。労働基準・賃金基準ともに口約束とその場しのぎです」
「友人にお金を貸すと両方なくす、という経験は私もありました」
「ぼく自身は返さなかったことは一度もありませんが、常識としては最低限の借用書を作成するのが当然でしょう。
返済方法と期限、実家の連絡先を記してもらって署名・捺印し、原本はこちら、コピーはあちらが持つ。ただしこうして友人・知人に貸したお金は返済を期待しないことですね。次の収入のある日に一部でも返してこないような人は初めから返済する義務感がないのです。それは彼のお金ではなく貸してくれた人のお金だ、という責任感もありません。もともと友人ではないのです」