人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

続(3)・江戸川乱歩の功績と大罪

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 「江戸川乱歩の功績と大罪」は今回が最終回。これが最後だから乱歩の30年以上におよぶ作品歴を要約してみます。
まず初期はあっさりしたトリック中心の短篇時代。デビュー作「二銭銅貨」、明智小五郎初登場「神楽坂の怪事件」、谷崎潤一郎宇野浩二的な「屋根裏の散歩者」など。いかにも大正文学らしい作品群。
 第二期は猟奇犯罪小説の時代。乱歩のイメージそのものがトリックになっている「陰獣」、力作「猟奇の果」「パノラマ島奇譚」、ワン・アイディアの短篇群「鏡地獄」「人間椅子」「蟲」「芋虫」などギャグすれすれの着想が光る。
第三期は昭和の新聞・雑誌連載小説ブームに乗った娯楽長篇群で「少年探偵団」シリーズもこの時期。大人ものでは「魔術師」「緑衣の鬼」「黒蜥蜴」「地獄の道化師」など枚挙にいとまがない。ある意味マンネリ化の極致、だがそれが乱歩のブランドを確立したというべきだろう。
 戦時中、小説の発表が困難になると、乱歩は膨大な蔵書から「類別トリック集成」をまとめ、戦後に「幻影城」正・続としてくだけた探偵小説エッセイに改めて刊行した。乱歩は評論の分野でも大きな仕事を残した。編集者的な志向性を持っていたのも評論家体質のなせるわざだろう。
 第四期は戦後作品。「化人幻戯」「十字路」「月と手袋」の3作だろう。うち「十字路」は代作だが、戦後の日本にどんな都会派犯罪小説が可能かを門弟に執筆させた実験作で、評価は高かった。あとの2作は老大家が自分の過去の全キャリアを振り返りながら書いた「生前の遺作」的作品で、ここまでくると感動を禁じ得ない。

 さて、前回予告した夢野久作との対決だが、「挿絵」バッティング事件は乱歩が譲り、かつ夢野を絶讚することで「格上の余裕」を見せつけた。それから1年後、雑誌「猟奇」に乱歩による夢野論、夢野による乱歩論が乱歩の要望によって同時掲載された。乱歩の夢野論は「挿絵の奇蹟」絶讚の流れを汲むものだったのに対し、夢野の乱歩論はふざけた文体で乱歩作品を全否定したものだった(!)
ライフワーク「ドグラ・マグラ」1935刊行の1年後、夢野は急逝する。乱歩の最後の復讐の時がきた。「ドグラ・マグラ」を認めずごく儀礼的な、冷淡といっていい追悼文を発表した。
 戦後最大のライヴァル・松本清張のデビューには乱歩は素直に次の時代の巨匠を認めた。乱歩の時代は終った。