人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ダダイスト辻潤(2)

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第一回は辻潤という人を生涯のいくつかの節目から概略にすることができたと思う。ただしエピソードによって語れるのは主に他人との係りだけになる。
ぼくがもっとも興味を引かれたのは辻の死かも知れない。妻・野枝の出奔後(そして関東大震災に乗じた官憲による大杉栄と野枝の虐殺後)辻は2人の内妻を得た。だが晩年、内妻は強制的に実家へ連れ帰られる。戦局は厳しく、寄食できるパトロンもなかった。ほぼ1年間の蟄居と絶食から昭和19年、60歳のダダイストは餓死死体となって発見される。遺体はシラミとダニだらけだったという。かつては華々しい時代もあり、文学史の片隅にせよ席を占める作家の死として、辻潤の生涯は絶体孤独のエピソードで締めくくられたのだった。

ぼくには別れた妻の元にふたりの娘がいるが、長女は中学生だからそろそろ親もすんなり答えられない質問もあるだろう(5年前に離婚した時は世の中のことでパパとママが知らないことはなかった。「ねえ赤ちゃんはどこから生まれてくるの?」「おしっこの穴とうんちの穴の間からだよ」「えー、そんなところから赤ちゃん出てこれないよ」「だったらママに聞いてごらん」「パパの言う通りよ」「えー?」などなど)、妻はけっこう「知らないわよ」「どうしてかしらね」で済ませていた。
ところで娘に「ダダイズムってなに?」と訊かれたらどう答えるか?妻ならあっさり「さあ何かしらね」で終りだろうし、長女も妻が知らないなら深追いはしまい。女って得だ。でも娘たちはパパは世の中のエンガチョなことまで通じていると知っている。ダダイズムならもう最初からエンガチョ方面だ。

ダダイズムってどんなこと?」
「それはね、世の中の常識や習慣に従わないで、自由な考えかたで文学や美術を創りだすことだよ」
模範回答。あとはそれが第一次世界大戦後の国際的な芸術運動で、19世紀末の芸術運動の流れをくみ、アナーキズムの関連とシュルレアリスムへの展開まで解説したら中学生には荷が重すぎるだろう。さらにシュルレアリスムアナーキズムを否定しコミュニズムの同伴者となる。ここまで来ると大戦間の政治思想の推移まで解説を要することになる。

いやはや、こんなパパいやだ。そしてパパは今や病気と孤独がお友だちで、見つかる時にはシラミとダニだらけの餓死死体にきわめて近い生活をしているのだ。