人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

復刻・市島三千雄全詩集(1)

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 市島三千雄(1907-1948・新潟生れ)は投稿詩を萩原朔太郎に見出だされた。「現代詩人全集第二巻・近代2」(角川文庫1963)に収録された11篇(他に2篇)・15ページが市島の全詩集になる。萩原をして「一種の天才である」と言わしめたデビュー作を読んで見よう。

『ひどい海』 市島 三千雄

雨がどしゃ降ってマントを倍の重さにしてしもうた
つめたい雨が一層貧弱にしてしもうた
波がさかさまになって
広くて低い北国が俺のことを喜ばしている
臆病なくせにして喜んでいる
なんと寂しい。灰色に火がついて夕方が来たら俥が風におされて中の客はまたたく間に停車場に来た
貧弱が一里もちょっと歩んでしもうたら
靴に水が通って氷るようで
貧弱が泣きそうになってひどい海からの風を受けなければならなかった
おっかないおっかないと北国をこわがった
白いペンキが砂に立って。その燈台がたうれそう-
日本海信濃川を越えた
漁猟船の柱が河上へ走った
あれもこれも貧弱に北の冬に負けている
その内俺は泣いてしまってあやまったあやまったと風にお許しを請うた
うすい胸が風に圧搾されて死ぬよな気持が俺を一層と弱虫にさせた
北国は殺すとこだと自らに故郷をいやがった
貧弱に貧弱にやせてぼんぼん泣いてしもうた

『あしくくたばる』 市島 三千雄

ねむい野原に
樹は青いいきれた臭気をはなって
三角にあばらの出た俺はむせてむせて窒息の状となってしもうた
しなだれかかる草の上に病気的胸を延ばして
ひからびる真似をした蛇が中毒意見をトグロ形に巻いてしもうた
なんて醜い権化だろう
日も乾いて湖水の蒸気が上って
ガマノホも。蘆。藻はものういに恋愛を粗末に無視してしもうた
抱き合うたあとの疲れで瞼を重うして
日影生の毛髪をさらす
あついいきれの午前についきんちょうを切らして-
片方の足は延ばし他はちぢめて
永遠に痩せつつ見にくく痩せて
とび出る目玉をとじて
ネッキストの濃艶
女蛇を夢むよう。可愛そうあばらを刺して
ああ縊死、縊死のためについつい縊死をしてしまおう。みにくい下品に顏反けられる程
痩せて痩せて乾物となろう。
(「日本詩人」1925年2月)

 萩原は市島独特の泥臭さに惹かれたと思われる。