「アナザー・サイド・オブ・ボブ・ディラン」1964はボブ・ディラン(1941-)の4作目で、ギター弾き語りのフォーク・スタイルのアルバムはこれが最後になる(後に企画的作品では復活)が、すでに楽曲はいわゆるフォークからポップ/ロックに作風を変えている。
スタジオに友人たちを招き、リラックスしたライブで一晩で作られたアルバムだが素晴らしい出来で、曲も粒ぞろい。特に冒頭の「オール・アイ・リアリー・ウォント」中盤の「マイ・バック・ページズ」と並んでトリを飾る次の曲はスタンダードと言える絶品。原題'It Ain't Me Babe'。
『悲しきベイブ』
きみの好きなように
窓から出ていってくれ。
ぼくはきみが必要としている男でも
求めている男でもない。
決して弱音を吐かずいつも強くて
きみが正しくても間違っていても
いつも守ってくれて
きみのためにドアを開けてくれる
そんな男をさがしているんだろう?
それはぼくじゃないよ、
ああ、ちがうんだぼくじゃないよ、
ぼくじゃない、きみがさがしている男は。
手すりをそっと放し
地面にそっと降りなよ。
ぼくはきみをがっかりさせるだけで
求めている男じゃない。
決して別れないときみに約束し
きみのために目を閉じ
きみに心をあわせ
きみのために死にもする
そんな男をさがしているんだろう?
それはぼくじゃないよ、
ああ、ちがうんだぼくじゃないよ、
ぼくじゃない、きみがさがしている男は。
夜に溶けてしまってくれないか
内側はぜんぶ石さ。
ここではなにも動くものはないし
ぼくだってひとりじゃないんだ。
きみが転ぶたびに起こしてくれて
いつも花を集めて
呼べばいつでも来て
きみの生涯の恋人以上じゃなくてもいい
そんな男をさがしているんだろう?
それはぼくじゃないよ、
ああ、ちがうんだぼくじゃないよ、
ぼくじゃない、きみがさがしている男は。
(アルバム「アナザー・サイド・オブ・ボブ・ディラン」より)
60年代のディランの歌詞は難しいものが多いが、これは表現も内容も平易で、しかも飽きがこない。この路線は『くよくよするなよ』くらいか。実に甘酸っぱい味がする。翻訳してますます好きになった。