人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

「二十歳の原点」

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 「二十歳の原点」1971(写真上)といえば大学生・高野悦子(1949.1.2-69.6.24・栃木県生れ=写真中)の二十歳の誕生日から鉄道自殺までの半年間の日記を書籍化したベストセラーですね。自殺した文学青年の手記としては原口統三の「二十歳のエチュード」や岸上大作「意志表示」に連なるものです。
 ただしこれは若い女性(タイトル通り二十歳を迎えたばかり)の日記という覗き見的側面もある。たとえば自殺前の半年間に油断から二回別々の相手にレイプされています。読者はすべてが死に向って進行している、という興味で読んでいく。あまりの反響に14歳まで遡った続篇が2冊出ました(大学入学からの「二十歳の原点序章」1974、高校時代の「二十歳の原点ノート」1976)。いずれも読みごたえのあるものです。

 小学生の頃に映画化されたのを憶えています。話題作でしたが主演女優は一度消え、にっかつロマンポルノで再デビューするも後が続かず、自宅アパートで他殺体になって発見されました。語り入りのサントラ盤('73.10=写真下)は音楽の四人囃子の人気からCD化以来ロングセラーですが(廃盤時代も長かったのですが、今は四人囃子幻のデビュー作として重要視されています)、映画本編はビデオもDVDにもされず、放映や再上映もなく、事実上の封印作品です。正式タイトルは「ある青春 二十歳の原点」(東宝'73・監督=大森健次郎)。主演女優は角ゆり子でした。YouTubeで巧く短篇にまとめた編集版を視聴できます。

 角ゆり子の不安定な女優活動と陰惨な死は男性関係と推定されます。女優にはよくあることです(悪質なヒモがいるとこうなります。たいがいクレームをつけては追加のギャラをゆするのです。仕事の依頼は減り、順調な活動は望めません)。映画の結末は実話同様に放心状態での鉄道自殺でした。YouTubeのダイジェスト版やサントラ盤を視聴しても、デビュー作で主演をつとめた器量は十分に感じられます。この作品は彼女の鳴り物入りのデビュー作だったのです。今や映画「ある青春~」も、角ゆり子の存在も、人々の記憶から風化されました。

 「原点」最大の意義は村上春樹(1949-)の長篇小説「ノルウェイの森」1987の副読本(またはその逆)としてでしょう。同年生れの作家がまさに「二十歳」の年を描いた、自殺者満載の小説です。