人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

山上たつひこ「ガキでか」

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こうして「山上たつひこ『ガキでか』」と記すだけで中年男の胸が熱くなるような気がします。山上たつひこは一時小説家宣言をしてマンガから遠ざかっていましたが、今は「中春こまわり君」(第1巻2009年~)として中年男になったガキでかの哀愁生活を描き充実した連載を続けています。
(読み切りの好評から作者も乗り気になり、登場人物が現実的に30年歳を取った作品が再び連載化される-というのは、他に例がないかもしれません)。

さて、こまわり君とのび太君、共通点はなんでしょう?どちらも人気コミックスの主人公、のび太君が標準型ヘタレ少年ならばこまわり君はダークサイド代表、住む世界もまるで違う。のび太君は永遠の小学生、こまわり君はなんとオン・タイムで歳を取っていた。ではどこが?

このふたり、同い年生れなのです。昭和39年(1964年)、現在47歳。連載が始まった時のび太くんは漠然と小学生、こまわり君は小学3年生という設定でした。
学年別学習雑誌連載のため、のび太くんは小学1年生から6年生までの間で(現在は小学5、6年生は休刊)、背景となる時代は昭和40年代半ばの風景です。
こまわり君は連載期間中何度か新学期を迎えていますが(第1巻1975年~)、小学3年生~5年生の間を行きつ戻りつしていました。作者の巧妙な計算が伺えます。中学校進学、思春期の問題をリアルに扱うと、こまわり君中心の「猥雑だがリアルではない」遊戯的ユートピアとしてのギャグ世界は崩壊してしまうのです。

余談。せっかくテレビで見たので「プリキュア・オールスターズDX」三部作の2のパッケージも掲載しますが、女児向けが徹底しているのはごく数人の例外を除いて男性はお父さん、大人の女性はお母さんしか出てこないこと。女児の世界に必要なリアリティー核家族に限定されていて、その延長線上に世界が構成されていること。プリキュア・シリーズは「普通の中学2年生」が異世界からの救援を求められに妖精に出会うというのが基本設定です。セーラームーンにはまだ自衛隊的発想の残滓がありました。
異世界からの「変な生き物」との出会い、というのはオバQはじめ藤子・Fマンガの得意な設定です。

特に結論もありませんが、のび太ともこまわり君とも同年の筆者はオイルショックが両者の世界を分けたように思えます。こまわり君が自然に歳を取れた所以です。