人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

映画作家ケネス・アンガー

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L.A.のアンダーグラウンド映画作家ケネス・アンガーの処女作は17歳(1947年)、21年ぶりの最新作は2002年、全作品を収録した定本DVD2枚組全集'The Complete Magick Lantern Cycle'(図版上)の発売は2010年だからそのキャリアは戦後すぐから現在までをカヴァーする。映画人の家庭に育ち、撮影所が遊び場だったという恵まれた環境がアンガーにアンダーグラウンドの道を選ばせた。
アンガーの名著「ハリウッド・バビロン」は業界人ならでは知る陰惨で退廃したゴシップと実話に満ちている。現実の映画界はアンガーの作品以上に病んでいた。また、活動のペースからも映画制作で生計を立てる必要はなかったと推測される。

とはいえ17歳で実験映画の監督デビュー(しかも主演兼任で美青年=下)とは自主制作とはいえあっぱれな根性で、1981年の「ルシファー・ライジング」で30年の沈黙に入るまで合計160分・9本の中短篇を制作する。2002年の新作は黒魔術師アレイスター・クロウリーを題材にしたもので、黒魔術への関心もアンガーにとっては男色以上に重要なものだ。Magickという綴りは黒魔術を表す。「サタニック・マジェスティーズ」から「ベガーズ・バンケット」、ことに『悪魔を憐れむ歌』68のストーンズと共通した世界観がある。69年の「わが悪魔の兄弟の呪文」はミック・ジャガー音楽だ。

三島由紀夫(「仮面の告白」は1948年)に見せたかったと、アンガー作品を見るたびに思う。さぞ羨望に堪えなかっただろう。三島はデビュー以来自分はゲイの小説家だとアピールし続けたが、誰も真剣に受け取らなかった。
実際アンガーは同性愛者を公言する必要はなかった。ハリウッドでは珍しくもなかったし作品が雄弁に語っている。実は同性愛者ではない、と言われても驚くことはない。作品の上で一貫した追求が行われているからには、作品はすでに作者から独立している。

作品は寡作だが1作ごとの完成度は高く、多彩な題材と手法にもすべてに一貫性がある。'The Complete Magick Lantern Cycle'はまるで50年かけて計画的に完成させた作品のように見える。17歳で作り始めて80歳で仕上げたことになる。それが本当に恐ろしい。
この前篇は概説に終始したが、後篇で作品解説します。