『ルフラン(すべてをルフランに変える青春の無知)』
あの踊っている人たち
あの光っているネオン
あの歌ってる女
「あなたに惚れた」
「わたしも」
あの廻ってるたのしい人たち
あの光ってるつめたいネオン
あの歌ってる不幸な女
「あなたに惚れた」
「わたしも」
あの廻ってる喫茶店のたのしい人たち
あの光ってるビルのつめたいネオン
あの歌ってるレコードの不幸な女
「あなたに惚れた」
「わたしも」
(詩集「独裁」1956より)
岩田宏(1932-・北海道生れ)には「独裁」から始まり「いやな唄」1959、「頭脳の戦争」1962、「グアンタナモ」1964、「岩田宏詩集」1966、「最前線」1972の6冊の詩集がある。以前「頭脳の戦争」から傑作『感情的な唄』『動物の受難』を紹介した。今回再読して感嘆した。34歳の全詩集は700頁の大冊で、詩集未収録詩篇が300頁を占める。一見平易で親しみ易い作風、多作さに匹敵するのは同世代では谷川俊太郎が唯一か。
だが岩田は谷川ほど知られていない(谷川が例外的なのだが)。「岩田宏詩集」は戦後詩の金字塔なのだ。改めてご紹介する。
『ぼくらの国では-ピカソ氏に』
岩のいただきに
金のにわとり
泉をみおろす
その草むらに王と女王
二人のくちづけににわとりが怒る
岩が裂ける 城がおちる グラナダの城
-ぼくらの国ではおいらんを
戸板にしばって川へながす
牛のあたま
牛のあたましたひと
祭の日につるぎを投げる
血まみれの首で死ぬのはきみだ
ちぢれ毛のきみ 栗色の馬でない
太陽 夜の太陽 その焼けつく砂に埋れて
-ぼくらの国ではおいらんを
戸板にしばって川へながす
ああ ラッパ
そしらぬ天に
はげしくオーボエを吹く女
恐怖のしずくの目 弓の口
砂漠を背負う男たちのかたわらで
乳房にささえられ 時計のようにしずか
-ぼくらの国ではおいらんを
戸板にしばって川へながす
ひとのひたいに
鳩 おびえるこどもの
歯と頬をみつめる
そのうしろに椅子 それから火
火のなかに石像がある 石像と旗
旗が裂ける 椅子が燃えはじめ 鳩が語る
-ぼくらの国ではおいらんを
戸板にしばって川へながす
(同上)