人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

溝口健二監督「山椒大夫」1954

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例によって田中純一郎「日本映画発達史」から引用。

山椒大夫 大映京都作品。原作森鴎外。脚色八尋不二、依田義賢。演出溝口健二。撮影宮川一夫。主演田中絹代、花柳喜章、香川京子島津保次郎が生前に意図して果たせなかった鴎外原作の映画化。内容が伝奇的物語なので、個々の人間的掘り下げは稀薄となったが、田中絹代の母親役に与えた溝口演出は、女性の運命に対する限りない同情と愛燐に満ち、佐渡海岸のラスト・シーン「西鶴一代女」に似て、むしろ鬼気迫るものがある。この年のベニス映画祭で銀獅子賞を受く。(昭和29・3・31)

さて、この一節を含む章は「日本映画の海外進出」と題されている。日本映画の国際映画祭受賞ラッシュは黒澤明羅生門」のベニス映画祭グランプリ(1951年9月)からだった。同作は翌年3月、米アカデミー賞外国映画賞も受賞し、ヨーロッパ映画にも影響を与えることになる。以下、この時代の国際映画賞受賞作品は、

溝口健二西鶴一代女」ベニス映画祭国際賞(1952.8)
溝口健二雨月物語」ベニス映画祭銀獅子賞(1953.9)
衣笠貞之助「地獄門」カンヌ映画祭グランプリ(1954.4)
黒澤明七人の侍」・溝口健二山椒大夫」ベニス映画祭銀獅子賞(1954.8)
市川崑ビルマの竪琴」ベニス映画祭サン・ジョルジュ賞(1956.8)
○家巳代治「異母兄弟」カルロビバリ映画祭グランプリ(1958.7)
稲垣浩無法松の一生」ベニス映画祭グランプリ(1958.9)

以後も続くが、1950年代を挙げればいいだろう。カルロビバリ映画祭? とにかく黒澤と溝口の評価が突出していたのがわかる。「七人の侍」「山椒大夫」同時受賞という恐ろしい事件まであった。映画批評家時代のフランソワ・トリュフォーが「山椒大夫の方が面白いじゃないか!」と怒った話は有名だ。

お話は森鴎外の「高瀬舟」、安寿と厨子王のあれです。ただ溝口の意図で物語は成人後の姿となり、香川京子と花柳喜章の年齢に合わせて姉弟ではなく兄妹になった。姉弟で良かったのではないか、と思うくらい香川京子が可憐で凛々しい。隅々まで丁寧に描かれた作品だがテーマは人身売買、救いのないムードに覆れた映画で、スタッフにもどこか不満の残る出来だったという。香川京子の美しさが清めている、そんな名作だろう。