人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

岩田宏『感情的な唄』( 再録)

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岩田宏(北海道生れ・1932-)の作品はこれまで何篇かご紹介してきたが、なかでも屈指の一篇を再録する。戦後現代詩でももっとも鮮やかにインチキくさい怪作にして傑作といえばこの作品の右に出るものはないだろう。

『感情的な唄』

学生がきらいだ
糊やポリエチレンや酒やバックル
かれらの為替や現金封筒がきらいだ
備えつけのペンや
大理石に埋ったインクは好きだ

極端な曲線
三輪車にまたがった頬の赤い子供はきらいだ
痔の特効薬が
こたつやぐらが
井戸が旗が会議がきらいだ
邦文タイプとワニスと鉄筆
ホチキスとホステスとホールダー
楷書と会社と掃除と草書みんなきらいだ
脱糞と脱税と駝鳥と駄菓子と打楽器
背の低い煙草屋の主人とその妻みんな好きだ
バス停留場が好きだ好きだ好きだ
特高
古本屋が好きだ着流しの批評家はきらいだ
かれらの鼻
あるいはホクロ
あるいは赤い疣あるいは白い瘤
または絆創膏や人面疽がきらいだ
今にも泣き出しそうな教授先生が好きだ
今にも笑い出しそうな将軍閣下がきらいだ
適当な鼓笛隊
正真正銘の提灯行列がきらいだきらいだ
午前十一時にぼくの詩集をぱらぱらめくり
買わずに本屋を出て
与太を書きとばす新聞社の主筆がきらいだ
やきめしは好きだ泣き虫も好きだ建増しはきらいだ
猿や豚は好きだ
指も
(詩集「頭脳の戦争」1962より)