人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

(2)妄想と思考障害

イメージ 1

前回のおさらい。

(1)牛丼には紅しょうがが載っている
(2)紅しょうがが載っている飯は牛丼である
(3)ちらし寿司は牛丼である

さて、ナースステーションに服薬しに来たタイミングの悪さで妄想型統合失調症患者T(ミスター・オクレ似)の「相談」に取っ捕まった筆者と同室者K。納得させようもない妄想の連発にアエリエルはどう逃げをうつか?続き。

ぼくは穏やかな表情でメモをとっていた。同室のKは「ヘルパーが偽名で」あたりからそわそわし始めた。ぼくの横顔をチラチラ見る。案外気が弱いのだ。
「それにこの病院…」Tは硬い表情で「看護婦のFが借りてきたアダルト・ヴィデオに出てました」
-見たんですか?
「見ました。Kさんがテレビニュースで府中の強盗犯人で出てきたのも見ました。この病院のテレビは偽の番組を流してるんです」
「おれが強盗犯人?」とKくん。ぼくは笑いをこらえながら聞き手にまわる。いきなりTは立ち上がって壁のプレートまで行って顔を近づけ、
「この病院は正規の日本精神医学協会に加入していません。それに病院内での死亡届を出していない」
-うむ(とぼくはメモを続けた。Tはぼくがメモをとることで訴えに満足を得られるようだった)。

「テレフォンカードも現金も何度も盗まれています。あ、そうだ」Tは興奮気味に「外泊中に秋葉原に買い物に行ったら、ヘルパーのTが男とぼくの後をつけて来たんです。近所のスーパーに行ったらまたTがいた」患者Tは絶句して、
「この病院にいるといつか殺されてしまいます。薬が合わず変えてもらったけれど、そのたびに悪くなる。警察に通報したけれど信用してもらえなかった」

「じゃ、話はうかがいました」と言ってぼくは立ち上がった。Tはしゃべりたいだけしゃべれただろうか?角をまがると同室者Kが「みんな妄想だろ?」
「決ってるじゃないか。いくつかは事実かもしれないが、自分で紛失したのを被害妄想で盗難と思い込んでる。脅してくる患者も被害妄想と幻聴だろう。とにかくこの病院全体に妄想を張り巡らしているんだ」
「それで、どうする?」
「放っておく。あのタイプは明日になればおれたちに話したことも忘れてる」
「…しかし、おれが府中の強盗犯人?許せん!
「なかなかのキャスティングだね」とぼくは言った。