人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ルイス・ブニュエル「黄金時代」

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「サソリの生態はきわめて獰猛であり…」と砂地で格闘しているサソリが描かれる。節足動物のドキュメンタリーのようだ。これは実は露骨にイメージのモンタージュで、監督ルイス・ブニュエル(1900-1983)の監督第二作「黄金時代」1930(B&W・61分・画像1~3)の全編のテーマを表している。つまり映画の冒頭から「人間をサソリとして描く」と宣言している(ブニュエルは大学で昆虫学を専攻した)。

前年からスペイン出身の映画青年ブニュエルは同郷の友人サルヴァドール・ダリと共にパリのシュールレアリスムのグループに加わっていた。すでに1928年の短編映画(脚本は「黄金時代」同様ダリとの共作)「アンダルシアの犬」で認められていた。では「アンダルシアの犬」(アンダルシアとも犬とも関係ないからこのタイトルにしたそうだ)とはどんな映画か?

「のちにスペイン語圈最大の巨匠になるブニュエルとフランスの前衛画家ダリが、感性のひらめくまま脈絡もない意表をつく奔放な映像断片を積み重ね、抑圧された欲望をあらわに秩序の世界を破壊する。満月をよぎるひと筋の雲、剃刀が女の目を切り裂く、男の手のひらに蟻、女の脇毛がウニになる、胸をまさぐる手、ピアノの上に腐乱したロバの死骸…わずか15分に衝撃を結集した映像はけっして色あせない」
(「アンダルシアの犬」DVD裏面解説)

けっこう色あせてると思うけどなあ、と学生時代にデートのついでに見て、
「『おれたちひょうきん族』みたいなものよね」
「そうだね。ギャグなんだろうね」
と恋人と話したものだった。スチール(画像4~6)だけ見ると「犬」のほうが凄そうなのだが「黄金時代」とシュールレアリスムから離れた第三作「糧なき土地」1932(スペイン寒村のドキュメンタリー、27分)のほうが面白かった。

この初期三部作の後ブニュエルはハリウッドに招かれるが仕事は干され、大戦でスペインには帰れずニューヨーク近代美術館でフィルム管理の職を4年間勤めるもダリ自伝の刊行で上映禁止映画「黄金時代」の監督なのが問題となってクビ。仕事を求めてメキシコに渡り15年ぶりに映画監督に返り咲きヘンな娯楽映画の巨匠になる。10年後にはスペインからも依頼が舞い込み、晩年15年間はフランス映画の巨匠だった。
面白い、ちょっと喰えない人です。ブニュエルは。