人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

#1・初ジャム・セッションの思い出

イメージ 1

(以下は人の勧めで半月前書いたまま放っておいた記事。続篇未定です)

「それじゃ『枯葉』でいいね?」
とTさんは言った。ジャムセッションはまだ始まって3曲目だった。1曲ごとに客席からプレイヤーが呼び上げられ、曲目と簡単な打合せをして演奏する(プレイヤーは入場の時に名前と担当楽器をノートに記帳する。見学のみでも可)。ジャムセッションを簡略に説明するとこうなる。ジャズマンはこうして即興演奏の修業を積む。

「アルトサックス佐伯さん、ベース…さん、ドラムス…さん」
と言って、それまでてっきりお店のおじさんだと思っていた人がピアノの椅子に座ったのには意表を突かれた。この人は東京のジャズ界では知らない人がいないピアニストで、この老舗ジャズクラブのスクールやセッションマスターを勤めているのも後で女性トランペッターのYさんから聞いた(Yさんもスクールで講師をやっている)。

よろしくお願いします、とステージに上がってまずあいさつした。ぼくがセッション初心者なのがわかるのだろう、Tさんたちはにやにやしている。
「何の曲にしますか?」
「それはホーンが決めなきゃ。テーマ吹くのはホーンなんだから」
「なにか提案してください。ポピュラーな曲を」
「それじゃ『枯葉』でいいね?」
とTさんは言い、ものすごいソロ・ピアノから始めた。『枯葉』に聞こえない。テンポすら取れない。代理コードで可能なかぎりアウトしている。かろうじてll-Vの名残りがある。するとベースが6/8、ドラムスは倍テンポで2/4を刻んでいるに気づく。ピアノの動きをベースとドラムスで分担している。ぼくが入るまで混沌は続くわけだ。
ぼくはしばらくアドリブで前奏を吹いていたが、一瞬ブランクができた。ドミナント。今しかない。
ぼくは『枯葉』のテーマを強い音で吹き始めた。ソロの終りで拍手があるのはジャズのマナーだが、吹き始めに拍手が上がったのは後にも先にもない。ここまでで5分以上『枯葉』のフリー・ジャズ版をやっていたのだ。
曲が始まればどんなにバッグのトリオがアウトしてもぼくは原曲のコード進行を死守すればよかった。ぼくはリード楽器なのだ。

まるでプロみたいですね、と知り合ったばかりのYさんに言った。Yさんは、
「ここに来てるのはほとんど仕事のないプロよ」
と言った。
(#1終り)