人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

D・リチー「映画理解学入門」

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 初版1984年、キネマ旬報社刊。初版のタイトルは「映画のどこをどう読むか-世界の10本の傑作から・映画理解学入門」で、2006年にスタジオジブリから再刊され「ジブリLibrary-映画理解学入門」とすっきりしたタイトルになった。昔なら篠田一士「20世紀の10大小説」(元祖はモーム「世界の10大小説」だが)を踏襲して「世界の10大映画」どーん、とかますところだ。
 センスが古い?いいんです。教条的?おお、そうだとも。物事には基本というものがあるのだ。

 たとえば小林信彦「世界の喜劇人」(これも必読書)にニューヨークの映画批評家連盟選出の「喜劇映画ベスト・テン」が紹介されている。このベスト・テンが実に納得のいく、吟味されたものであるかはベスト・テンの10本だけ見たのではわからない。サイレントのスラップスティック短編から40年代のスクリューボール・コメディまで200本は見ないとわからない。
 リチーの本書は初版のサブタイトル通り映画史上の傑作10本を選んでテーマと技法を検討したものだが、10本の選出が実に考え抜かれていて、時代的にもテーマ・技法的にも偏らず、喜劇映画とアニメーションこそないがこの10本で映画のヴァリエーションをほぼ押さえている。

 リチー選の10本の傑作(これがベスト・テンだとは著者は言っていない)を見てみよう。リチーは年代順に並べているが便宜上ナンバーを振る。()内は監督。

1.戦艦ポチョムキン(エイゼンシュテイン、1926)
2.裁かるるジャンヌ(ドライヤー、1928)
3.新学期・操行ゼロ(ヴィゴ、1933)
4.ゲームの規則(ルノワール、1939)
5.市民ケーン(ウェルズ、1940)
6.忘れられた人々(ブニュエル、1950)
7.東京物語(小津、1953)
8.抵抗(ブレッソン、1956)
9.情事(アントニオーニ、1960)
10.バリー・リンドン(キューブリック、1973)

 これらは80年代の映画好きの学生なら学校の授業に出なくても、意地でも見ておく映画だった(できれば二度以上)。リチーは絞りこんだのでグリフィス、フォード、ヒッチコック、溝口、ロッセリーニが落ちたが仕方ないだろう。読書とは著者との対話だから、読者はリチーと膝詰めで作品論を戦わせながら本書を読み進めることになる。