人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

(12)詩人氷見敦子・立中潤

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第二詩集「水の人事」1982の翌年、氷見は詩画集「異性の内側」(岩佐なをとの共著)、第三詩集「パーティ」を上梓する。「異性の内側」は無題の4行詩が6篇だけだが充実した内容。

*
水の地図をひらくと
異性の肩に輝く死魚の鱗が積もっている
建物の深い街を歩く
衝動する舌がネオンの中に逆立ち、臭気の袋を叩いている
*
冷たい事件が街の端からパーラーの扉を捲りあげていく
扉の向こうで魂の匂いも消える
時の腐乱から光が剥がれ落ちたあと
太い風の底に異性の首が座り込んでいる
(詩画詩「異性の内側」より)

第三詩集「パーティ」はどうか。巻頭の表題作。

『パーティ』
エレベーターで
運ばれてきた人たちが
照明の下に集まっている
位牌になった人や
焼き場に連れ去られた人まで
すました顔で清潔な皿を持っている
やあ、と肩をたたかれ
驚いて相手の顔を覗き込んだ

今朝、
手術室で
血をすっかり抜き取られた彼女が
奥の席でもうはしゃいでいる
いつのまにか
スリップ一枚になり
手近な大男の膝を
ブランコのように揺り動かしている
やれよ、
やってしまえよ
欲情する
言葉をドロップのように転がし
わたしを見る目つきも
危うく切ない

挑発された人が
ホールの中央で真新しい首を振っている
わたしは
男とも
女ともつかない人に抱きつき
可笑しくて涙を流した
小宇宙に浮かぶ
尻の暗がりには
男娼のぺニスが突き刺さっていて
忍び笑いが洩れているみたいだ

興奮した男の腕が
何本もパーティに差し出されて
あっというまに
彼女の腰に巻き付いていく
嫉妬、する
わたしは
手当たりしだいに
彼らの腕を切り倒していくのを
だれかが
8ミリカメラに収めている
照明に炙り出された奇態は
壁から天井へ
飛び歩く鬼のようだ
わたしは花束を投げ捨てると
放心した男の上に馬乗りになっている
(詩集「パーティ」より)

第一詩集の素直な抒情から3年でここまできたのは、荒川洋治井坂洋子ねじめ正一伊藤比呂美、さとう三千魚ら最新の現代詩からの率直な反映だろう。この時点で余命2年とは本人はもとより誰も予想できなかったことだった。そこが立中潤の死とは大きく異なる点でもある。