人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

(15)詩人氷見敦子・立中潤

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創作年代推定では立中は『十月』の後3篇(うち2篇は4篇の連作)を書いている。最後の連作を引こう。これが絶筆になる。『墓地にて』『朝の歌』『化石の森』『幼年論』からなるが、中間の短詩2篇を引く。推定では75年5月上旬、立中の自殺は5月20日になる。

『朝の歌』
朝は欲求の不発
まぶしい光が夜の墓景を一掃し
とぐろまく生命の荒みへきみの肉を運んでゆく
朝 折れてゆく木々 折れているろっ骨
がすべてきみのものだとしても
きみは自らきみのくらい痕跡を狩りとる密猟者でなければならない
まぶしい日光が細い生命線をつたって
きみの肉にどっとなだれこんでくる
魂を未知の遺伝に預けたきみの一日が肉のなかから孵化しだす
不眠の課徴金がずいぶん重いが
きみは理由もなくその重さに耐えてゆかねばならない

日々が脱皮する肉ならぱ
その肉の胚種はすでに違和の病巣である
生命に敵意するもの
生命に敵意する夜の過程
がこわれることのない道行を固くつみあげてゆくとき
朝は永遠に欲求の不発する恥辱の卵巣となる

『化石の森』
時間が充ちたのできみはその地から去ってゆかねばならない
去ってゆけばゆくほど
その地の深い断層のしわはきみの現在におしよせてくるだろう
しめあげられた魂は
義務の探照燈を点けたまま静脈を泳ぎ回るだろう
どこへ行くすべもなくその地で

その地はその地のまま尽きている
砕けた獣骨がちらばり秘かな堕胎がいくつも行われ
地下水道」のくらい坑道がきみの肉に通じている
そこを流れてゆく美しい女の脱脂綿やら
血まみれた結合の廃液……
きみの頭蓋に時間がふりつもるにつれて ばらばらの化石
からいくつもの遺跡が合成されてゆく
きみのどんよりした眼球がそれを鑑別し
鑑別書をいちいちそれにはりつけてゆく そのように
売りに出したこと晒したこと
をきみは失敗ともはや名付けるな
ひとたび時間の沼から発掘されたものはいつまでも
艶のない光を発しつづけなければならない

貧しい関係の地がひっそりときみの肉と血をむかえてくれる
そこではむしろ
うすぐらい頭蓋のなかにきみは住みつかねばならない
(詩集「『彼岸』以後」より)

立中の最終作『幼年論』は次回でご紹介したい。