立中最後の連作から残る一篇を抄出する。劈頭の作品で、ようやく安定した詩法を確立したことがわかる。
『墓地にて』
1
つぶれた夢たちはきみの骨の襞でやはりくすぶっているか
つかえた胸底をやぶって沸騰してくるものを いま
きみの生存の血液はどのようにむかえ入れているのか
ばらばらに散った骨の墓場を
きみは薄いヴェールで蔽いつくしてきた 現在
かたちばかり膨れあがった幾層もの皮膚の繃帯……
の底に常にどよめいているきみの廃墟のいきものたち
がぼうふらのように泳ぎ回るが
反吐することもなく貧しい肉の尾ひれをふってきみもやはり泳いでゆくであろう
ひび割れた生のひづめできみはきみの肉を支えてゆくであろう
「さようなら」と言う声にのって人は去り
見捨てられたきみは悪意の森のなかで声を秘そめる
(…)
個々の闇に葬られた人々の顔は
きみが一人の闇を燃え始めるときまで現れることもない
きみの砕けた胸の地図がひっそりと炙りだされてくるとき
きみの肉は地上から追放された人間たちのうすぐらい墓場になる
*
2
(…)
見えているものの偽りはすべて激しく
滅びても滅びることのない断片の化石のみがいつもひっそりと取り残されてゆくのであろう
移りゆく季節の順列をきみの体液はそれでも秩序だって巡りゆく
やがて割れるであろう石の時間にも死は遠いのかもしれぬ
花は咲くことによって石の中核に敵意を繁らせる
だからきみの育くむ花の悪意も
「さようなら」を言うこともなく口を閉ざしたまま途方にくれて
きみの骨に死の花粉をふりまいてゆくばかりだ
*
3
「さようなら」した群たちの皮膚をはぎおとした場処では
悲哀をにじませた疲労の顔をどこへもおし隠すことができぬ
死んでいったものは生者の疲労の房に重くぶらさがっている
生まれ出ようとするものは飢えいた時間たちの舌に息を奪われ
すでに不具である
(もうかたちをもたない魂そのもの!)
「さようなら」の色素が自らの音階を駆け下ってゆくとき
蛆虫だらけの足をひきずる未知の戦士たちよ
吹き晒しの氷原では死の冷泉ばかりが煮えたぎっていたか
つぶれた夢の生理ばかりが燃えていたか 離魂劇ばかりがはげしかったか それを教えよ
(詩集「『彼岸』以後」より)