人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

#2.『枯葉』・初ジャムセッション

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(これは現役ライターという人に「まるでなっていない。最悪に下手」とボロクソに言われた旧稿です)。

「それじゃ『枯葉』でいいね?」
とTさんが言った。ジャムセッションはまだ始まって3曲目だった。1曲ごとに客席からプレイヤーが呼び出され、曲目と簡単な打合せして演奏する(プレイヤーは入場する時に名前と担当楽器を記帳する。見学のみでも可)。ジャムセッションを簡単に説明するとこうなる。ジャズマンはこうして即興演奏の修業を積む。

「アルトサックスは佐伯さん、ベース…さん、ドラムス…さん」
と言うと、それまでお店のおじさんだと思っていた人がピアノの椅子に座った。Tさんは東京ジャズ界では知らない人がいない不遇ピアニストで、この老舗ジャズクラブでスクールやセッションマスターを勤めているのも後で女性トランペッターのYさんから聞いた(Yさんもスクール講師をやっている)。

よろしくお願いします、とステージに上がってあいさつした。ぼくが初心者なのがわかるのだろう、Tさんたちはにやにやしている。
「何の曲にしますか?」
「それはホーンが決めなくちゃ。テーマ吹くのはホーンなんだから」
「…なにか提案してください。ポピュラーな曲を」
「それじゃ『枯葉』でいいね?」
とTさんは言うと、ものすごいソロ・ピアノから始めた。まるで『枯葉』に聞こえない。テンポすら取れないほどだ。代理コードで可能なかぎりアウトし、かろうじてll-Vの名残りがある。するとドラムスは1/2テンポで2/4、ベースは6/8でビートを細分化しているのに気づく。この混沌を収拾するのはサックス次第なのだ。

ぼくはアドリブでずっと前奏を吹いていたが、一瞬ブランクができた。ドミナント。今しかない。
ぼくは『枯葉』のテーマを強いアクセントで吹き始めた。ソロの終りで拍手があるのはジャズではマナーだが、吹き始めにあんなに喝采されたのはこの時しかない。ここまでで10分近くも『枯葉』のフリー・ジャズ版をやっていたのだ。
曲が始まればどんなにバッグのトリオがアウトしてもぼくは原曲の拍節を死守すればよかった。ぼくはリード楽器なのだ。

皆さんまるでプロみたいですね、と知り合ったばかりのYさんに言った。Yさんは、
「ここに来てるのはほとんど仕事のないプロよ」
と言った。これがぼくのステージ・デビューだった。