人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

2012-12-01から1ヶ月間の記事一覧

新年を迎えるアルバム

昨年もやはり同じような記事を書いたのだった。内容は紅白歌合戦にかこつけてロック・フェスの古典「ウッドストック」と「バングラデシュ」、ロック・レヴューの古典「マッド・ドッグス&イングリッシュ・マン」の紹介で、今気づいたが三作ともレオン・ラッ…

乾直惠詩集「肋骨と蝶」1932(完)

詩集は意外にも恋愛詩で結びを迎える。例外的だが、かえってそれが詩集全体を引き締めている。絶唱というべき一篇だろう。 24.『日記』 ぼく達はいつも坂を下りきったところで立ち停まった。あなたの邸宅の、大きな門のまえで……。殆んど書斎か応接室の額の中…

(33a)ソニー・クラーク(p)

Sonny Clark(1931-1963,piano)。この連載は「モダン・ジャズ名盤500」(音楽之友社内・1993)の「モダン・ジャズの巨人25」をひと通り解説し、さらに25人から洩れたジャズマンを追加解説している。 1.チャーリー・パーカー/2.ディジー・ガレスピー/3.セロニア…

乾直惠詩集「肋骨と蝶」1932(11)

この詩集は丸山薫(1899-1974)、三好達治(1900-1964)、そして伊藤整(1905-1969)に捧げられた詩篇を収める。この三人の友人だった梶井基次郎(1901-1932)の没後の名声、同年輩ながら早熟の天才だった川端康成(1899-1972)の中に乾直惠(1901-1958)を置くと、出世…

(32e)ホレス・シルヴァー(p)

ホレス・シルヴァーに5回を費やしたのはマイルス・デイヴィスとは別の軌道でモダン・ジャズのほぼ全歴史を生きてきた存在だから、ということになる。これまで掲載してきたアルバム・ジャケットを今回の掲載ジャケットと比較してほしい。60年代後半、ジャズは…

三半規管喪失・その他のエッセイ

(1)「車酔いより船酔いに近い発作」というのがリアルですね。体というより脳にきている感じ?ぼくはメンタル患者ですから調子の悪い時は(1)メンタルが原因・(2)処方の副作用が原因、の両方でフラフラになることがありました。階段から落ちる、自転車で倒れる…

意外な子守唄・その他のエッセイ

○コメントと断片より (1)これはたしかマディ・ウォータースのカヴァーで、ぼくの持っているフォガットのベストではライヴ盤からの選曲です。ロンサム・デイヴ亡くなってもう15年近くなりますか。意外にフォガットみたいなブルース/ブギ系HRって赤ん坊の寝か…

(32d)ホレス・シルヴァー(p)

さてついにモダン・ジャズ史上最高にファンキーなバンドがやって来た。それが「フィンガー・ポッピン」1959(画像1)でメンバーが揃い、次作「ブローイン・ア・ブルース・アウェイ」1959(画像2)で不動の団結力を固め、ジャズ史上に燦然と輝く傑作ライヴ「ドゥ…

2012年末回顧、その他のエッセイ

○コメントと断片より (1)今年はビーチ・ボーイズ(85年以来!)、P.I.L.、マガジン、Fixx、カーズが新作出しましたね。フィックスは来日公演見ているのに印象が薄いのが残念です。いいバンドなのに。新作も全盛期にひけをとらない傑作と評判いいですね。 (2)い…

乾直惠詩集「肋骨と蝶」1932(10)

この詩集は一篇一篇は独立しているが一冊が統一された作品であり(主題の反復に注意)、日本の現代詩でこれに成功した例は少ない。山村暮鳥「聖三稜玻璃」1915、萩原恭次郎「死刑宣告」1925、伊東静雄「わがひとに与うる哀歌」1935に並ぶとなるとよほどの詩集…

(32c)ホレス・シルヴァー(p)

さて、ここからがようやくシルヴァー自身のバンド、ホレス・シルヴァー・クインテット時代になる。第一作「シルヴァーズ・ブルー」はまだジャズ・メッセンジャーズ時代の契約が残っていたようで、エピックから発売された。 正式なクインテットのデビュー作と…

父のやせ我慢、その他のエッセイ

○コメントと断片より (1)細やかなお心づかい、ありがとうございます。娘たちへの(幾分は別れた妻の分も)クリスマス・プレゼントとお年玉には準備に3か月かかりました。贈り物だけではなく送料だけでも1日の食費をすべて外食にしたくらいかかりますが、受け取…

通院日記(12月25日火曜・小雨)

いつもは月曜が予約日だが今週は天皇誕生日の振り替えで休診、年始はまだ休診なので間が開きすぎる。そこでまとめて内科も精神科も火曜日になった。歯科も入った。挨拶まわりのようで面白い。 祝日明けで多少混んではいたものの、内科受診の後精神科にまわる…

(32b)ホレス・シルヴァー(p)

前回で書いた通りシルヴァーとアート・ブレイキーとの共演はブレイキーを高く買っていたブルー・ノート・レーベルの企画で、ライヴ盤「バードランドの夜」54.2の残りメンバーは元々クリフォード・ブラウン(トランペット)&ルー・ドナルドソン(アルト・サック…

厳しいファン、その他のエッセイ

○コメントと断片より (1)昔の仕事仲間にレコード・デビュー前(サックスのメンバーがいましたね)からのボウイ(最初は「暴威」でした) のファンだった女性がいまして、布袋さんと山下久美子さんの結婚式ではファン代表で大泣きのスピーチをしたそうです。彼女…

乾直惠詩集「肋骨と蝶」1932(9)

偶然だが今回の並びは大正期の夭逝詩人・三富朽葉と北村初雄からの影響を感じさせる。意図的に古風なのだ。乾は夭逝はしなかったが、第一詩集にして夭逝詩人の面影があった。 18.『海』 窓の遠くに青い波。矢車草と海の煙と。空が雲を垂れている。雨に重たく…

(32a)ホレス・シルヴァー(p)

Horace Silver(1928-,piano)。予定の25人(39本)を過ぎて31人(58本)まで引っ張ってしまったが、本来ならウィントン・マルサリスは歴史的評価未定で選外と見なし、追加した人選を含めて30人なら過不足なかっただろう。J.J.やデクスター、ペッパーが入っている…

クリスマスの物語「水晶」(再録)

タイトルは知られているがクリスマス・ストーリーの名作と語られることは少ないドイツ文学の古典に、アーダルベルト・シュティフターの「水晶」(短篇集「石さまざま」1853収録)がある。 シュティフター(画像・1805-1868)はボヘミア生れのオーストリア作家。…

クリスマス・イブ日記2012

ランボーに『みなし児たちのお年玉』という詩があるが、筆者も孤児のようなものだ。クリスマスにはローストチキンとケーキくらい食べたいと考え、底値ながらそこそこ満足感のありそうな品を物色してみた。ピーナツ・バター・サンドと夏場のアイスクリーム以…

(31e)ウェイン・ショーター(ts)

マイルス・バンド(もうその頃にはカルテットやクインテットなどの伝統的な呼称はジャズでも古臭く、アルバム制作メンバーとライヴ・メンバーは別々でも当然とされた)を脱退して後、ショーターは元キャノンボール・アダレイ・グループでジャズに電気キーボー…

乾直惠詩集「肋骨と蝶」1932(8)

今回は短い佳篇が並ぶ。いずれも異なった手法で同一テーマのヴァリエーションを試みて成功しており、同時代の若手詩人たちから賞賛され、尊敬を集めたのがわかる。才能の大きさ・広さでは同世代の第一人者だった三好達治・丸山薫らには及ばないが(この二人に…

(31d)ウェイン・ショーター(ts)

さて今回はショーターの60年代後期ブルー・ノート作品をご紹介したい。この時期はまるまるマイルス・クインテット在籍時に重なるから、前回ではマイルスの作品系列をご紹介した。 では、ショーターのアルバムを主役にこの時期の年表を作るとどうなるか?「」…

ブルーベック、その他のエッセイ

○コメントと断片より (1)ブルーベック亡くなりましたか。日本人が何と言おうとブルーベック=デズモンドは本国ではジャズ・ピアノ、ジャズ・アルトNo.1なのだ、と岩浪洋三氏の文章で読みました。実際ジャーナリズムでもリスナーでもそれだけの認知度があるよ…

(31c)ウェイン・ショーター(ts)

ジャズ・メッセンジャーズを退団したショーターはすぐさまブルー・ノートからのリーダー作の第1作「ナイト・ドリーマー」1964.4(以下19略)、第2作「ジュジュ」64.8を録音。当然のように全曲オリジナル。秋のマイルス・クインテットのヨーロッパ・ツアーから…

乾直惠詩集「肋骨と蝶」1932(7)

今回の2篇も動的な題材を扱いながら描写は静謐で、執拗なまでに視覚的。『音』と題された詩篇ですら視覚的運動性によって構成されている。視覚性が高いばかりに音が響いてこない、という事態になっている。これだけ日本の詩で非・音楽的な発想に徹底し、独自…

(31b)ウェイン・ショーター(ts)

遡ってアート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズ時代のショーターを見てみよう。ショーターも自分のリーダー・バンド(ウェザー・リポート)を持つまで長かったが、コルトレーンの下積み時代と較べると下積み時代そのものにも華がある。大卒ジャズマンの…

蒲焼き代200円!師走のうな丼!

土用ごとに必ず掲載する谷岡ヤスジの傑作「ウナギの死」。今年も土用に乗じて蒲焼を食した方もさぞかし多かろうと思い、滋養と贖罪の意味で年末ながら共に再読いただければ、と再録する。実は筆者は今日、こんな年末にもなってスーパーの特売で蒲焼きを手に…

(31a)ウェイン・ショーター(ts)

Wayne Shorter(1933-,tenor sax)。もはやこの人の項目なしには済まないだろう。60年代前半はメッセンジャーの音楽監督を勤め、60年代後半はブルー・ノートから自己名義の名作を発表しつつマイルス・クインテットで活躍。70年代はジョー・ザヴィヌルとの双頭…

乾直惠詩集「肋骨と蝶」1932(6b)

まず前回に前編3連をご紹介した散文詩『肋骨と蝶』の後編2連を掲載する。 11.『肋骨と蝶』(後編) 私は沼にそった坂道に、帰りを急いでいた。葺蘆の間から幽かに夕映が輝いて、草王や河骨の花々が、ほのかに煙を立ち上がらせていた。行々子がしきりに騒いでい…

乾直惠詩集「肋骨と蝶」1932(6a)

ついに詩集は表題作『肋骨と蝶』にたどり着く。目次4頁・本文54頁のこの詩集で、ちょうど中央の26~29頁にかけて収録されたこの作品は必ずしも詩集最高の一篇ではないかもしれないが最長の散文詩であり、初出「新作家」昭和6年10月号では『肋骨を昇る蝶』が…