人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

2012-04-01から1ヶ月間の記事一覧

連休3日目日記(4月30日・月曜)

先週の土曜、いや金曜の夕方からといっていいだろう、ほとんどストレートに来週月曜に明けるまでの大連休が始まった。書きための記事はあるのだが、それは連休明けに回します。 昨晩もいつもは明けた日の分の記事をアップして寝るのだが、妙に落ちつかず元々…

溝口健二監督「山椒大夫」1954

例によって田中純一郎「日本映画発達史」から引用。 ○山椒大夫 大映京都作品。原作森鴎外。脚色八尋不二、依田義賢。演出溝口健二。撮影宮川一夫。主演田中絹代、花柳喜章、香川京子。島津保次郎が生前に意図して果たせなかった鴎外原作の映画化。内容が伝奇…

岩田宏第三詩集「頭脳の戦争」

岩田宏(1932-・北海道生まれ)は本名の小笠原豊樹では高名な翻訳家で、ロシア文学とアメリカのハードボイルド・ミステリという一見相反してその実相反する分野に定評がある。原著よりいい、と言われるくらい美しく流麗な訳文は今日でも再版され続けている。 …

エプスタン「アッシャー家の末裔」

現行版DVDのデータでは、今回見たYouTubeにアップされているヴァージョンは編集か再生速度が違うようだ。学生時代に新宿アートシアターで見たのはどうだったっけ?完全にサイレント上映だったのは確かだ。英語タイトルだったと思う。今回見たのは仏語タイト…

ボードレール『己れを罰する者』

シャルル・ボードレール(1821-1867)の出発点はやはりヴィクトル・ユゴーが旗頭に立ったフランスのロマン主義になるだろう。小説ではスタンダール「赤と黒」、音楽ではベルリオーズ「幻想交響曲」に最高の達成を見ることができる。1830年の小説や音楽がいまで…

黒澤明「羅生門」1950

例によってネタ本・筈見恒夫「映画作品辞典」1954から引用する。 ○羅生門(日、大映、1950)封切られた当時は識者の間でも賛否こもごも、とにかく風変りな野心作であることは認められながら、「キネマ旬報」のベスト・テンでも第五位だったものが、ヴェニス国…

飯島耕一『他人の空』『何処へ』

『他人の空』 鳥たちが帰って来た。 地の黒い割れ目をついばんだ。 見慣れない屋根の上を 上ったり下ったりした。 それは途方に暮れているように見えた。 空は石を食ったように頭をかかえている。 物思いにふけっている。 もう流れ出すこともなかったので、 …

シャンタル・アケルマンの映画

ベルギー出身のパリ在住映画作家シャンタル・アケルマン(Chantal Ackerman/写真上・1950-)は初期には女性として(しかもレズビアンとして)、ユダヤ人として(祖父母の代は強制収容所で虐殺された)、またフリーランスの自主映画作家である被差別をテーマにモチ…

『アイスクリームの皇帝』

作者ウォレス・スティーヴンス(Wallece Stevens,1879-1955)はアメリカの詩人。生涯を保険会社勤務で過ごした経歴は作曲家チャールズ・アイヴズを連想させる。処女詩集「ハーモニウム」(Harmonium,1923)は44歳。戦後急速に評価が高まり20世紀アメリカ最高の詩…

伊藤大輔監督「御誂次郎吉格子」

「おあつらえ・じろきち・ごうし」と読む。「お誂え」には映画検閲への皮肉がこめられているそうだ。サイレント時代の日本の時代劇映画は血気盛んなものだった。アクション映画でもあり反体制的なものだった(およそ半世紀後のロマンポルノのように)。制作者…

岩田宏『神田神保町』

今回も岩田宏(1932-)の第二詩集「いやな唄」から都会風景詩をご紹介する。かなりの長詩なので第二連を省略しないと収まらなかった。追い込みで少し引用する。 「神保町の/事務所の二階の/曇りガラスのなかで/四五歳の社長が/五四歳の高利貸と/せわしなく話し…

ムルナウ「吸血鬼ノスフェラト」

1922年ドイツ、サイレント・B/W・84分。映画史初の吸血鬼映画でドライヤーの「吸血鬼」1930と並ぶ古典中の古典、岸田森は言うにおよばず後のベラ・ルゴーシやクリストファー・リーのドラキュラ伯爵よりも主演のマックス・シュレックが凄い。人間に見えないの…

小林秀雄訳ランボー・地獄の季節

アルチュール・ランボー(1854-1891)が決定的に日本に浸透したのは批評家・小林秀雄による詩集「地獄の季節」「飾画」の全訳1930だろう。共に18~19歳作で以後ランボーは37歳の病没まで一切詩作しない。では作品を。 『錯乱ll 言葉の錬金術』より 《一番高い…

溝口健二・遺作「赤線地帯」1956

まずはデータを。 ○赤線地帯(1956年・大映作品 脚本=成沢昌茂 撮影=宮川一夫 音楽=黛敏郎 主演=若尾文子、京マチ子、木暮実千代、三益愛子、沢村貞子) 溝口健二についての参考文献では1936年の「浪華悲歌」以来没年まで伴にした脚本家・依田義賢による回…

岩田宏第二詩集「いやな唄」1959

『いやな唄』 岩田 宏 あさ八時 ゆうべの夢が 電車のドアにすべりこみ ぼくらに歌ういやな唄 「ねむたいか おい ねむたいか 眠りたいのか たくないか」 ああいやだ おおいやだ 眠りたくても眠れない 眠れたくても眠りたい -無理なむすめ むだな麦 こすい心…

燕の巣・2011年/2012年

(1) 図版のうち下のふたつが去年の巣、今年はひとつになってしまって排水管の上で狭苦しそうな造りなのが図版上だ。 どうしてこうなったか。去年のふたつは整骨院と化粧品店の店頭の庇に巣を造っていたのだが、秋頃にどちらも店頭を改装してしまった(それま…

燕の詩・燕の句

燕を詠んだ現代詩の白眉は伊東静雄(1906-1953・長崎県諫早生れ)の『燕』1939だろう。第二詩集の巻頭詩に据えたからには自信作で、発表誌での評判も良かったと思われる。 門の外の ひかりまぶしき 高きところに 在りて 一羽 燕ぞ鳴く 単調にして するどく 翳…

ドライヤー『裁判官』『あるじ』

カール・Th(テホ)・ドライヤーと書くだけで気合いが違う気がする。デンマークの巨匠といえばラース・フォン・トリアーではなくこの人だった。活動歴はサイレント期からヌーヴェル・ヴァーグの時代にまでおよぶ。 かつて大島渚が「やはり映画作家はフィルモグ…

メタボになりました。

腸炎の入院後に高尿酸値血症が発覚し、さらに足むずむず病まで明るみに出てしまった私ですが、今月から尿酸値はもう近所のお医者さんに引き継いでもらっていいだろう、と許しが出ました。それで先週血液検査を受けてきて、尿酸値のほうは正常値でしたが、中…

岩田宏第一詩集「独裁」1956 より

『ルフラン(すべてをルフランに変える青春の無知)』 あの踊っている人たち あの光っているネオン あの歌ってる女 「あなたに惚れた」 「わたしも」 あの廻ってるたのしい人たち あの光ってるつめたいネオン あの歌ってる不幸な女 「あなたに惚れた」 「わた…

わが愛しのバッジー

70年代イギリスのハードロック・バンド、バッジー(Budgie)。この名をどれだけの人が知るだろうか。意外というかさすがというか、過小評価バンドの再評価に熱心なメタリカが早くからバッジーの代表曲を2曲カヴァーしている(『ブレッドファン』Breadfan、『脳…

「ポネット」ちゃん

原題'Ponette'、制作1996年フランス、カラー・110分。主演ヴィクトワール・ティヴィゾル(1996年ヴェネチア国際映画祭主演女優賞)、脚本・監督ジャック・ドワイヨン。1997年ニューヨーク映画批評家連盟外国語映画賞、1998年春、日活系で日本公開(ノヴェライズ…

ホーフマンスタールの童貞喪失詩

ヒューゴー・フォン・ホーフマンスタール(1874-1929・ウィーン生れ)は10代で名声を確立し、19世紀末~20世紀にまたがり生涯ドイツ語圈文学の最先端に身を置いた。この詩篇は全詩集中ほとんど最後のもの。青年の性的初体験(の後の陰鬱な精神状態)は詩の題材と…

ジョン・レノン全訳詞集の前に

最近は変な路線に入ってしまったこのブログだが(前からだが)、全部ジョン・レノンがいけない。せっかく「ジョン・レノン全訳詞」という好企画を立ててソロ活動までの動向とソロ活動の全体像も丁寧に記事にした。 だったら訳し始めればいいのだが、学術的に時…

清岡卓行『愉快なシネカメラ』

『愉快なシネカメラ』 かれは目をとじて地図にピストルをぶっぱなし 穴のあいた都会の穴の中で暮す かれは朝のレストランで自分の食事を忘れ 近くの席の ひとりで悲しんでいる女の 口の中へ入れられたビフテキを追跡する かれは町が半世紀ぶりで洪水になると…

大怪獣出現!世界最強怪獣メギラ

DVDのパッケージが外国版ポスター(タイトルが仏・独語だ)を使った図版上、たぶんフィルムの切れ端から採った怪獣登場シーンが図版中、完全に宣伝用の嘘写真が図版下だ。最初は(予告編によれば)「恐竜くらい」の大きさで出てくる。しかしこのスチール写真だと…

ネルヴァル『アルテミス』

『アルテミス』 「十三番目の女」が帰ってくる…また最初の女だ、 いつも唯一の女、-同じつかの間だ、 おお女王よ! 最初の女か最後の女か? 王よ、唯一の恋人、または最後の? 揺りかごから棺の中まで愛してくれた女を愛せよ。 私独りが愛した女は今だ私を…

好きな女性ジャズ・ヴォーカル

(図1)ヘレン・メリル「ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン」1954 (図2)ペギー・リー「ブラック・コーヒー」1953,56 (図3)クリス・コナー「バードランドの子守唄」1953,54 年度が分れているのは、最初10インチLPとして制作・発売され、後に2枚ず…

金井美恵子の初期詩篇

金井美恵子(1947-・東京生れ)は1968年に石川淳の推挽で太宰治賞投稿作「愛の生活」で小説家デビュー。70年代初頭と80年代初頭に2冊ずつの詩集を持つ。 『ハンプティに語りかける言葉についての思いめぐらし』 おお! ハンプティ・ダンプティ! おお! 詩人!…

ルイーズ・ブルックスという女優

今回はデータの引用に徹する。紹介作品は古典映画として国内版DVDも出ているし、YouTubeで全編視聴できる。80年前の著作権消滅作品だからだ。まるで戦前ブルースのレコードのようだが、まさしくこれらはベッシー・スミスの時代に人気を博した映画でもある。…