人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

2011-12-01から1ヶ月間の記事一覧

鮎川信夫『白痴』

鮎川信夫(1920-1986・東京生れ)にはあまり話題にされないが好ましい佳篇がいくつもある。「荒地」同人編「荒地詩集一九五一年版」収録の鮎川詩集は『死んだ男』『アメリカ』『白痴』『繋船ホテルの朝の歌』『橋上の人』の5篇。このなかで『白痴』は力作4篇に…

「ダダイスト辻潤」を書く中年男

年賀状を書き投函、12月27日。来年のため宛名の面をコピーする。昨年~今年の年末年始は精神病棟だった。病院以外は年賀状だけの往来。肉親すら交際を絶っている。病院2・教会1・肉親親類縁者4・恩人4・友人4、計15通。減ったな、とも思うし、まだそんなに、…

富永太郎『癲狂院外景』ほか

全36篇、60ページほど。それがこの詩人の全作品になる。詩集は1924年10月の『秋の悲歎』から翌年の死去までを完成作、それ以前を習作とする。確かに初期の作風・文体の多彩さは才能の大きさより不安定さを感じさせる。だが中にも魅力的な佳作がいくつも見出…

ダダイスト辻潤(3)

先に2回を掲載して、辻潤の生涯とその人物像には興味を持ってもらえることがわかった。確かに辻に匹敵するような窮死作家はただ一篇の長篇私小説「根津権現裏」1922(新潮文庫で復刊)で名を残す藤沢清造(1889-1932、公園で凍死)くらいだが、詩人の石川善助は…

ボブ・ディラン『ベイビー~』

ボブ・ディラン(Dylan,Bob・本名ロバート・ジンメーマン/1941-)はアルバムを聴いたことがない人、ましてやライヴを見てしまった人には信じがたいと思われるが、かつては本当に天才だった。得にアルバム第二作「フリーホイーリン」1963から第七作「ブロンド・…

テーマは「船」。

こうしてアルバム・ジャケット並べてみただけでも和むものがある。20年~30年前はLPレコードで、現在はCDで親しんでいるものばかりだ。他にも船ジャケットのアルバムがあるのは確かだが今は手もとにないか、画像を探すにもバンド名やアルバム名があやふやで…

ジュール・ラフォルグ『日曜日』

ジュール・ラフォルグ(仏・1860-1887)はボードレール影響下の象徴派後期の詩人で無韻自由詩の創始者のひとり。シェークスピアに傾倒、諧謔に富む作風と大胆なパロディ手法で20世紀の詩にも影響が大きい。近代詩上もっとも夭逝が惜しまれる詩人のひとりといえ…

ダダイスト辻潤(2)

第一回は辻潤という人を生涯のいくつかの節目から概略にすることができたと思う。ただしエピソードによって語れるのは主に他人との係りだけになる。 ぼくがもっとも興味を引かれたのは辻の死かも知れない。妻・野枝の出奔後(そして関東大震災に乗じた官憲に…

村山槐多『二月』ほか

村山槐多(1896-1919・横浜生れ/京都育ち)は詩人と同等かそれ以上に画家として知られる。中学卒業後日本美術院研究生となり、ボヘミアン的生活のかたわら多くの短歌・詩・小説を残し、画家としての地位も固めた矢先の夭逝だった。 『二月』 村山 槐多 君は行…

もっとどす黒い恋人

やっとどす黒い恋人について語る時がきました。本当はこんな労多くして功少ない作業は苦手ですが、年末近いと手持ちのネタから引っ張って来ざるを得なくなる。そこにたまたま「次回作は『どす黒い恋人』にぃ~」というお告げがありまして、わぁめんどくさい…

岩田宏『感情的な唄』

先立って『動物の受難』をご紹介した北海道生まれの詩人・岩田宏(1932-)は言葉の手品師ともいえる人で、端正な翻訳を手掛ける一方、詩作では発想も表現も自由奔放を極めることもできた。『動物の受難』では形式化によるグロテスクなユーモアを醸し出していた…

ダダイスト辻潤(1)

日本のダダイストとして知られる辻潤(つじ・じゅん/1884-1944・浅草生れ)には思い入れが強すぎ、書く前から気が乗らない。 いま辻潤に興味を持つわずかな人は、 (1)妻・伊藤野枝がアナーキスト・大杉栄の元へ走った事件か(1916年。瀬戸内晴美が「美は乱調に…

ジュール・ラフォルグ『日曜日』

ジュール・ラフォルグ(仏・1860-1887)はボードレール影響下の象徴派後期の詩人で無韻自由詩の創始者のひとり。シェークスピアに傾倒、諧謔に富む作風と大胆なパロディ手法で20世紀の詩にも影響が大きい。近代詩上もっとも夭逝が惜しまれる詩人のひとりといえ…

わすれはしないこともある( 完)

載っちゃいましたね。いいのかなこれ。サラちゃんが脱いでからは(百合でも赤ちゃんプレイでも)雑誌ならともかく、ネット上ではアダルト・サイトでもなければ載せられない写真ばかりです。他の写真も胸をはだけてたら無理でしょう? 情けないよなあ、とこの記…

高橋照幸『第五氷河期』ほか

今回も日本のシンガー・ソングライターの歌詞を取り上げる。高橋照幸(1948?-)は69年3月からジャックスのローディを勤め、6月には早くもジャックスをバック・バンドに「休みの国」名義でデビューした(岡林信康とのスプリット・アルバム)。ジャックスが日本の…

クリスマスの物語「水晶」

タイトルだけは知られているがクリスマス・ストーリーの名作と語られることがないドイツ文学の古典に、アーダルベルト・シュティフターの「水晶」(短篇集「石さまざま」1853収録)がある。 シュティフター(1805-1868)はボヘミア生れのオーストリア作家。実家…

三上寛『このレコードを私に…』

めずらしく日本のシンガー・ソングライターの歌詞を詩としてご紹介する。三上寛(1950-・北海道生まれ)はアルバム「三上寛の世界」1971でデビュー、初エッセイ集「愛と希望に向って撃て」1973の後第5作「BANG!」1974で一区切りをつける。それはインディーズの…

続(3)・江戸川乱歩の功績と大罪

「江戸川乱歩の功績と大罪」は今回が最終回。これが最後だから乱歩の30年以上におよぶ作品歴を要約してみます。 まず初期はあっさりしたトリック中心の短篇時代。デビュー作「二銭銅貨」、明智小五郎初登場「神楽坂の怪事件」、谷崎潤一郎~宇野浩二的な「屋…

祝算之介『町医』『詩集しおり』

この詩集には思い出がある。昭和22年手書き謄写版限定50部の祝算之介詩集「島」より白眉の一篇を引く。 『町医』 夜とともに、町医者はやってきた。家来をつれて。その家来は、たぶん同じ猟好きな仲間ででもあろう。 ちいさな部屋のなかには、黄いろい絵具が…

清貧という病(コラージュ)

●むかし読んで印象に残った逸話に、貧富の定義をめぐるフィッツジェラルドとヘミングウェイの会話がある。第一次世界大戦後の新人としてデビューし、友人となった彼らはその実ずいぶん資質が異なっていた。同じく「ロスト・ジェネレーション」の作家と目され…

鮎川信夫『Who I Am 』

戦後現代詩を代表する詩人・鮎川信夫(1920-1986・東京生れ)の作品は、先に『繋船ホテルの朝の歌』1949をご紹介した。今回は1977年の「現代詩手帖」新春号の巻頭を飾りセンセーショナルな話題を呼んだ異色作を取り上げる。 『Who I Am』 まず男だ これは間違…

続・私の愛した歌謡曲レコメ編

(前回記事レコメからつづく)本文ではジブリ談義で歌謡曲の話に行きつきませんでしたね。離婚したとはいえ娘2人を小学生まで育てると、ジブリは全作何回見たかわかりません。基本的に主役は成長期の女の子だから、その面でも強く感情移入するようです。 歌謡…

吉岡実『わがアリスへの接近』

戦後現代詩の巨匠のひとり・吉岡実(1919-1990・東京生まれ)は作風の実験にも意識的で、およそ生涯に4期の変化があり、そのいずれもが成功している。今回ご紹介する詩篇は1974年発表、大反響を呼び日本での「アリス」(ルイス・キャロル)ブームの火つけ役とな…

どす黒い恋人

(場所・階段教室。生徒の入りは三割弱。設置を学生に頼んで、馴れぬパソコンと格闘中) …どうもプロジェクターの調子がよくないが、みなさん見えますか?今回は西洋の近代文化における「ファム・ファタール」とはなにかを(黒板にFemme Fataleと大書きする)解…

富永太郎『秋の悲歎』

富永太郎(1901-1925・東京生れ)の存在は大岡昇平の評伝「中原中也」で知った読者が多いと思われる。中原が上京するきっかけをつくり、小林秀雄や河上徹太郎を巻き込み富永の死まで壮絶な友情を結んだ。 富永は晩年1年間、人妻との不倫の断念から後年の梶井基…

続(2)・江戸川乱歩の功績と大罪

乱歩の記事にジャズのアルバム・ジャケットを掲載したのは理由がある。人気バリトン・サックス奏者ジェリー・マリガンがビートルズやディランの曲を取り上げた作品で、タイトルは「イフ・ユー・キャント・ビート・ゼム、ジョイン・ゼム」(「勝ち目がないなら…

菅原克己『光善寺通りの…』ほか

コミュニズムの詩人・菅原克己(1911-1988・宮城県生まれ)はまた社会的弱者への愛の詩人でもあった。前回ご紹介した代表作『ブラザー軒』からも感じられるように、特に子供と病者と老女と死者にそそぐ視線は優しい。名作ぞろいの第二詩集1958から3篇をご紹介…

おぼえていないこともある( 後篇)

すべて生き恥と思えばどうということもないが、前篇ですでに多くの(もともと多くはないから、なけなしの、というべきか)女性の訪問者からの顰蹙を買ったと思う。ぼくのイメージもこれまでだ。しかし女の子たちだってお店の宣伝のために体を張ってくれていた…

岩田宏『動物の受難』

岩田宏(1932-・北海道生まれ)は本名の小笠原豊樹では高名な翻訳家で、ロシア文学とアメリカのハードボイルド・ミステリという一見相反してその実相反する分野に定評がある。原著よりいい、と言われるくらい美しく流麗な訳文で、ぼくも中学生の頃は図書館から…

私の愛した歌謡曲

毎回みっちり調べものをして資料的にしっかりしたものを書くばかりが能ではない。このブログは内容よりも毎日更新、しかも制限文字数1000字というのが大事なので、これもテレビ放映の「仮ぐらしのアリエッティ」を見ながら書いているのだ。どう考えても真剣…