人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

2014-05-01から1ヶ月間の記事一覧

偽ムーミン谷のレストラン(1.01)

ムーミン谷にレストランができたそうだよ、とムーミンパパが新聞から顔を上げると、言いました。今朝のムーミン家の居間には、 ・今ここにいる人 ・いない人 ―のどちらも集まっています。それほど広くもない居間に全員が収まるのは、ムーミン谷の住民は人で…

『鎖を離れたプロメテ』アンドレ・ジッド(3)

19世紀末期に、アンドレ・ジッド(1869~1951)はまず詩人ステファヌ・マラルメ門下の象徴主義文学者としてデビューしました。ジッドは、というより出版界ではよくある手口でもありますが、処女作『アンドレ・ワルテルの手記』(1891)を狂死した文学青年の遺稿…

アル中病棟入院記192

(人名はすべて仮名です) ・4月19日(月)晴れ 「仲村画伯退院。年配の入院患者ほど治療の成果は高いというし、仲村さんは画家の仕事がなくなってから不本意な仕事に就いてそのストレスからアルコール依存症になったのだが、退院後にはご隠居さんになり好きな絵…

頭の中の映画4/レネ、フェリーニ

アラン・レネ『去年マリエンバートで』(61年・仏)で試みられたのは、いわば現実の不確定性の映像表現というはなれわざでした。観客は映像で提示されている矛盾しあう物語の、どれが映画内の「真実」なのか断定できない。この映画の脚本はレネの原案で小説家…

アル中病棟入院記191

(人名はすべて仮名です) ・4月18日(日)晴れ 「昨夜は断酒会の院内例会の後で男性の入浴時間と女性の入浴時間の切り替えがあり慌ただしかったが、例会中に大人しくしていた分その後は気晴らしの雑談が親しい同士で長引き、勝浦くんの通院するクリニックの女医…

文学史知ったかぶり(9)

自然主義小説の発祥国フランスでは、1865年のゴンクール兄弟『ジェルミニー・ラセルトゥー』、67年のエミール・ゾラの『テレーズ・ラカン』がもっとも早い自然主義の実践例です。自然主義の発生を促したフローベールの『ボヴァリー夫人』が1857年ですから、…

アル中病棟入院記190

(人名はすべて仮名です) ・4月17日(土)深夜雪~曇りのち晴れ 「斎藤さんは転院になる予定が完全な骨折までには至らず、近隣の総合病院で検査を受けてきてこちらの病院でアルコール科入院を続けることになった。当然脳震盪なども調べられただろう。だが包帯で…

ゴースト・オブ・ア・チャンス(クロスビー&ヤング'32)

ビング・クロスビーの自作曲で出世作。まず戦前最高の人気女性歌手より。 [Mildred Bailey-Ghost of A Chance]39.6.27(画像4) http://m.youtube.com/watch?v=inqrvOsnESE 男性歌手ならやはり、 [Frank Sinatra-same]45.12.7(画像5) http://m.youtube.com/wat…

アル中病棟入院記189

(人名はすべて仮名です) ・4月16日(金)雨のち曇り「今日のOTはフィールドワークで、近隣の自然公園までお弁当を持ってピクニックに行く予定だった、がおとといから週末は雨予報で冷え込むということだったのだ。決行されるかは当日の天候次第、ピクニック自…

青春と文学

ジッドを明治年間に日本に紹介したのは上田敏と永井荷風ですが、荷風は学生時代に岩波書店版全集30巻揃えて隅から隅まで読んだクチです。正直言って荷風や吉行淳之介、ヘッセやジイド(60年代までの表記)は、青年時代に読んでいると再読した時の風化が激しい…

『鎖を離れたプロメテ』アンドレ・ジッド(2)

前回ではアンドレ・ジッド(1869~1951)の小説『鎖を離れたプロメテ』(1898)からプロローグ、そして第一部の「個人道徳に関する記録」の第一章までをご紹介しました。後世のカトリック作家・行動的なユマニスト、さらに禁欲的ゲイ作家といったイメージとは異…

アル中病棟入院記188

(人名はすべて仮名です) ・4月15日(木)雨のち曇り (前回から続く) 「病院から断酒会に出席のメンバーは冬村さん、山崎さん、松本さん(以上男)、滝口さん、木島さん(同女)の計六人で、アルコール科患者は酒歴発表以外にも入院中に最低二回の自助グループ出席…

頭の中の映画3/レネ、フェリーニ

アラン・レネ『去年マリエンバートで』(61年・仏)の登場人物は三人、妻と夫、そして謎の男だけです。舞台となる滞在型巨大ホテルはイタリアともフランスともつかないリゾート地にあるらしく、登場人物たちも名前を持ちません。 焦点となるのは人妻と謎の男が…

アル中病棟入院記187

(人名はすべて仮名です) ・4月15日(木)雨のち曇り (前回から続く) 「勝浦くんは柳瀬さんがいた頃は渥美さんと柳瀬さんを昼間っからごろごろしやがって、と陰口を叩いていたが、次第に渥美さんが他人と談笑しようにも言語障害でしゃべれないから部屋にこもっ…

文学史知ったかぶり(8)

ヨーロッパ文学史『ミメーシス』は全20章のうち18章でようやく小説の時代に入りました。具体的にはスタンダール、バルザック、フローベールです。19章はゴンクール兄弟とゾラが検証され、最終章はヴァージニア・ウルフを主に論じながらプルーストとジョイス…

アル中病棟入院記186

(人名はすべて仮名です) ・4月14日(水)晴れのち曇り (前回から続く) 「わざわざ訊いてくるからには、勝浦くんがどういう返答を期待しているかは想像がついたが、それよりもなぜ訊いてくるかの方が気になる。そこで、清水くんは清水くんじゃないの、ととぼけ…

スピーク・ロウ(ミュージカル挿入歌/クルト・ワイル'43)

ミュージカル上演年、早くも28歳のシナトラが録音。 [Frank Sinatra-Speak Low]43.12.5(画像4) http://m.youtube.com/watch?v=A8mazhIOmGM 急逝三年前の味わい深い歌唱は、 [Billie Holiday-same]56.8.14(画像1) http://m.youtube.com/watch?v=GMTI_GCYmS8 …

アル中病棟入院記185

(人名はすべて仮名です) ・4月14日(水)晴れのち曇り (前回から続く) 「午後は眠いが、今日は灰皿掃除当番なので少しだけ横になり灰皿掃除に取りかかる。梅崎さんが手伝ってくれる。滝口さんがこないだ梅崎さんもいる前で笑って話してくれるには、第三病棟か…

『鎖を離れたプロメテ』アンドレ・ジッド

五月の昼下がり、パリの大通りで、痩せた紳士が太った紳士の落したハンカチを拾って渡しました。太った紳士は一礼して去りかけましたが、ふと振り返ると痩せた紳士にペンと封筒を差し出し、痩せた紳士は請われるままに封筒に宛名を書くと太った紳士に返しま…

アル中病棟入院記184

(人名はすべて仮名です) ・4月13日(火)晴れ (前回から続く) 「渥美さんの発表も終えたので朝の買い物のお伴以外特にお手伝いすることもない。日記を書き足し、あまり面白くないが『ハック』の続きを読む。村岡花子さんには悪いが訳者も面白いと思って訳して…

頭の中の映画2/レネ、フェリーニ

アラン・レネの『去年マリエンバートで』(61年・仏)とフェデリコ・フェリーニ『81/2』(63年・伊)は、現実と仮想が入り混じる映像表現で類似はよく指摘されますが、実際の印象はかなり異なります。それを技法的にプルーストとジョイスの相違になぞらえて評し…

アル中病棟入院記183

(人名はすべて仮名です) ・4月13日(火)晴れ (前回から続く) 「患者会代表の話が出たのはひさしぶりだったが、退院予定日の決定が相次いでそろそろ冬村さんも決まるかな、とだれもが、なんとなく話題にするからで、それだけみんなが冬村さんに頼ってきたから…

文学史知ったかぶり(7)

前回はアメリカ文学史研究書の紹介で終りましたが、ヨーロッパ文学の表現方法の変遷を論じた大著『ミメーシス』からこの連載は始まっており、同書にはアメリカ文学の項目は含まれていないのも前回の末尾で強調した通りです。ではなぜアメリカ文学という脇道…

アル中病棟入院記182

(人名はすべて仮名です) ・4月13日(火)晴れ (前回から続く) 「そういう具合に男性患者は入院という環境では性分が拡大されたかたちで現れているようだが、単に接している時間が長いからかもしれない。女性患者は日頃からこの人はこんな感じなんだろうな、と…

アイル・ビー・シーイング・ユー(ミュージカル挿入歌'38)

二週間で打ち切りになった不発ミュージカルの挿入歌だが、ドーシー楽団在籍中のシナトラが録音。当初は反響がなかったが、太平洋戦争の開戦で歌詞の内容がアピールし44年度には再発売され大ヒット。反則だが46枚組で4000円の大全集を推薦する。 [Tommy Dorse…

アル中病棟入院記181

(人名はすべて仮名です) ・4月13日(火)晴れ 「どちらともなく五月に退院したら会って食事したり遊びに行ったりしよう、という話になったが、そういえば先週も連絡先を交換しよう、という話になっていたのを思い出したのはそろそろおたがい食事に戻らなきゃ、…

頭の中の映画/レネ、フェリーニ

アラン・レネの『去年マリエンバートで』(61年・仏)とフェデリコ・フェリーニ『81/2』(63年・伊)は、ほぼ同時期にリヴァイヴァル公開で映画館に観に行きました。もう30年も前になるので、初公開から再上映までよりも、再上映以降の時間の方が長くなります。…

アル中病棟入院記180

(人名はすべて仮名です) ・4月13日(火)晴れ 「食前前検温36.4度、脈拍66、体重(下着)57.9kg。一時は60kg台に乗ったのにまた減らしてしまった。昨晩は日記を早く切り上げ町山智浩『USAカニバケツ 超大国の三面記事的真実』(大田出版・04年)ようやく読み終える…

文学史知ったかぶり(6)

アメリカ文学史について、専門的な興味ぬきに面白く読めるものとして、前回あげたロレンスの、 『アメリカ古典文学研究』(講談社文芸文庫) があります。またイギリス人によるアメリカ文学研究ではトニー・タナーの、 『言語の都市~現代アメリカ小説』(白水…

アル中病棟入院記179

(人名はすべて仮名です) ・4月12日(月)曇りのち雨 (前回より続く) 「午後のプログラムはVTR学習。テレビ東京制作の95年度(!)の番組で、内容も古くて浅い。感想が書きようがないが、仕方なく書きとめておいたテロップに沿うように見出しをつけて内容を要約し…