人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

2011-08-01から1ヶ月間の記事一覧

虫垂炎日記(8) 病院に行って来た

29日(月)血液の再検査でまた入院していた病院に行ってきた。虫垂炎が治まったあとの炎症反応その他を調べるためだ。電車やバスに乗るのも怖い男がちゃんと電車に乗り、病院のシャトルバスに乗って採血されに行ったのだ。片道だけで十分くたびれた。 受付から…

シルヴィア・プラス

シルヴィア・プラス(1932-1963)は有望な女性詩人として将来を嘱望された矢先に長年の躁鬱から自殺した。二児の母だった。自伝的小説に「ベル・ジャー」(2004年映画化)がある。紹介する「父さん(Daddy)」は遺稿詩集「アエリアル(Ariel)」(1965)より。アメリカ…

虫垂炎入院日記(7)

前回は「アリスの地獄めぐり」なんていう不穏な言葉で中断した。人生を地獄めぐりというのはキリスト教文化圏ではほとんど基本的な発想になっている。「シエナが私をつくり、マレンマが私を滅ぼした」(ダンテ「神曲」)と言って出典を当てられない人はいない…

戦前のモダニズム短歌

今回は戦前のモダニズム短歌を代表する前川佐美雄(1903-1990)と斎藤史(1909-2002)を紹介する。共に名家の子弟・子女で同人誌仲間だった。それぞれの処女歌集より抄出する。 春の夜のしずかに更けてわれのゆく道濡れてあればつつしみぞする かなしみはついに…

虫垂炎入院日記(6)

この入院日記、病み上がりとはいえあまりに話題があちこちに飛ぶのでずいぶん気楽に書いているように見えるかもしれない。気楽なのは事実だ。まるで病人が書いているように見えるかもしれない。それもその通りでぼくはいかれた人間だ(精神疾患すべてがそうと…

八月末の燕の巣

ぼくは誤認していた。燕の巣はほんの3軒となりにふたつあったのだ。今までご報告していたのはこのふたつを混同していたと思われる。 1枚目がきれいに原形をとどめている整形外科の軒下の巣、2枚目はふたつに崩れている化粧品店の軒下の巣だ。だめ押しで3枚目…

虫垂炎入院日記(5)

前回でネタも上がったことだし、もう少し赤ちゃん時代の写真を披露するのもナルシスティックかつ嫌味ったらしくて良い機会だろう。座って上機嫌に笑っているのは生後半年、母の手につかまり立ちしているのは生後8か月だ。ぼくはまだ人生の苦汁を知らなかった…

岡井隆の短歌

岡井隆(1928-)は塚本邦雄と共に戦後の前衛短歌をリードした歌人。特に初期の4歌集が名高い。代表歌を抄出する。 「齊唱」(昭和31年) 灰黄の枝をひろぐる林みゆ亡びんとする愛恋ひとつ あわあわと今湧いている感情をただ愛とのみ言い切るべしや 抱くときに髪…

虫垂炎入院日記(4)

今までぼくは入院5回拘置所1回と書き、自分でもそう思い込んでいた。初入院は2008年12月中旬、それまで病気やケガで入院したことはないのだから、精神疾患を除けばぼくはすこぶる健康体で過ごしてきたことになる。結局盲腸も切らなかったし。 だが夕食の冷し…

戦後俳句・戦後短歌

戦後俳句に高柳重信(1923-1983)あれば戦後短歌に塚本邦夫(1920-2005)がいる。紙幅もないので今回はこの2詩人の処女句集・処女歌集の紹介にとどめる。この2冊は自費による共同出版でもあったことを注記しておきたい。 《流竄の歌》 * 身をそらす虹の 絶嶺 処…

虫垂炎入院日記(3)

なんともはや、3回目まで来てほとんど話が進展していない。それには理由もあって、退院報告に寄せられた皆さんからのコメントへの返信を編集した記事でおおよそは書いてしまったからだ。 ハードボイルドのカリスマ作家にレイモンド・チャンドラーという人が…

ディラン・トマスのかっこいい詩

ディラン・トマス(イギリス・1914-1953)はとにかくかっこいい詩を書いた人だった。二十歳にも満たない若さで鮮烈にデビューし、生涯を詩人以外の職業に就かなかった。こういう詩人はどの国でも1世代にひとりくらいしか現れない(日本では三好達治、谷川俊太郎…

もうひとつの戦争詩

原爆慰霊記念日の前に広島の原爆投下にまつわる3篇の詩を紹介した。少々前倒しでやっておいてよかった。あの後すぐにブログ記事を書ける状態ではなくなったからだ。 八月の内にもうひとつやっておきたいことがあった。大戦中にほとんどの詩人が戦争詩を強要…

虫垂炎入院日記(2)

病気なんていうのはだいたい突然降りかかる不条理として訪れる。事故やケガならはっきり目に見えるから不運な物理現象に感じられるのだが、それを言うなら病気の方こそ蟻の巣の穴から堤防決壊だから原因はたどりやすいはずだ。なのに不条理と感じるのはカタ…

カスパール・ハウザーの歌

カスパール・ハウザー(1812-1833)についてはご存じの方も多いだろう。1828年ニュールンベルグで徘徊しているところを保護された推定16歳の知恵遅れの少年は鉛筆で自分の名前だけは書くことができ、ポケットからは生年月日と軍隊で預かってほしいこと、それが…

虫垂炎入院日記(1)

この歳になってかかったことがないのなら、虫垂炎なんてぼくとは一生無縁だと思っていた。小学校の低学年で済ますか、でなければそのままずっとかからずに済むか。まるで性質は違うが、幼児期を過ぎれば耐性がつく小児性の気管支炎みたいなものだと思ってい…

楽しい現代詩2・伊東静雄の詩2篇

伊東静雄(長崎県諫早市生・1906-58)。生涯を大阪の中学校の国語教師に従事したこの人は同時代最大の詩人だった。およそ50年前のフランスで、最大の大詩人だったステファヌ・マラルメが中学校の英語教師だったのを連想する。共に萩原朔太郎、シャルル・ボード…

夜ごと太る女のために(4)

前回は例によって文字数制限いっぱいに本文を書いたため図版に何の説明もなかった。そこで再掲載。これがキャラヴァン73年の名作「夜ごと太る女(For Girls Who Grow Pump In The Night)」のアルバム・ジャケットでございます。意外に思う方もおられるのでは…

楽しい現代詩1・祝算之助「町医」

愛読する詩人はキリがないが、日本の詩人をギリギリ3人に絞るなら泣く泣く蒲原有明、萩原朔太郎、金子光晴、三好達治、中原中也を落とし、西脇順三郎、伊東静雄、石原吉郎を選ぶ。鮎川信夫と吉岡実没後現役詩人では谷川俊太郎、飯島耕一、入沢康夫、吉増剛造…

夜ごと太る女のために(3)

「今回は虫垂炎での入院でした。ほぼ絶対安静、仕方なく読書(退院患者の寄贈品)で暇をやり過ごしました。少しは入院記録をつけましたが、ただのエスキス、いや、それ以下の代物です。その代わり、湿っぽくて静まりかえった病棟のメランコリーをたっぷり体感…

夜ごと太る女のために(2)

同じタイトルで散漫極まりない未完のエッセイを載せたのはちっとも梅雨らしくなかった先日の梅雨時だったと思う。たかだか2か月前ほどを大仰に言うのは滑稽だが、今回の入院は、入院自体はこの4年間で5度目(!)とはいえ、精神疾患ではなく身体疾病というだけ…

退院報告です。

今日(8月22日・月曜)退院してきたばかりです。先々週末から腹痛がするので、週明けの8月8日(月)に内科を受診したところ、急性腸炎(いわゆる盲腸、虫垂炎)で即近隣の総合病院に入院が決定し、救急車で搬送されました。炎症反応が退くまで24時間点滴のみで絶対…

The Velvet Underground(2)

デビュー当時にケチがついたのがVUのその後の不運にずっとつきまとう「ニューヨークの変でスノッブなバンド」というイメージだったようだ。当時は戦後生まれのベビー・ブーマーによるフラワー・ムーヴメント大全盛、ヒッピーの連帯による平和革命が時代思…

The Velvet Underground(1)

バンドの名前長すぎてタイトル文字数に収まらない(笑)。でもタイトルの英文字表記や図版を見て禍々しい予感を持った人、正解です。昔々、1967年のデビュー以来今日に至るまで影響絶大、暗黒ロックの裏番長(表はハード・ロックやヘヴィ・メタルがあるからね)…

安東次男「CARANDRIER 」より

原爆シリーズ第三回(完)は安東次男(1919-2002)を紹介する。この人はバリバリの共産主義詩人から始めてシュールレアリズムに移り40台半ば以降は近代俳諧の研究と句作に本格的に足場を移した。とにかく頑固オヤジとして先輩詩人・俳人、同時代の仲間・新人も…

燕の巣・完結編( 日記・8月5 日)

買い物ついでによってみた。どう見ても空き家である。本当に巣立ちぎりぎりの時期に気づいたんだな。来年も来るのだろうか?こっちが入院してたりして。 銀行のATMコーナーで用事を済ますと、歯科衛生士のヤマギシさんにあった。全身オレンジ色の魔法少女も…

原民喜の詩と死

原爆シリーズの第二回目はいきなり極北へいく。原民喜(1905-46、図版は44歳)の作品は教科書に採用されたり新聞のコラム、テレビのドキュメンタリーで紹介されることも多いから、生涯をマイナー・ポエット(玄人受けはするが作品は売れない)で終ったこの詩人…

あらゆるドアの前で( 死んだ少女)

ナジム・ヒクメット(1902-63、ソヴィエト)の詩を英訳を参照して紹介する。ピート・シーガーによってイギリス民謡からメロディーを採られ、その後多くのミュージシャンがとりあげている。英訳題は'I Come And Stand Every Door'、邦題は「死んだ少女」で通っ…

ジャニス・ジョプリン(3)

ジャニスの印象はいかがでしたか、と問われて、出世作となったビッグ・ブラザー&ホールディング・カンパニーの「チープ・スリル」を手がけたCBSコロンビアの社内プロデューサー、ジョン・サイモンはこう答えている。エレノア・ルーズベルト以来美人でなくて…

土用の二の丑(2000アクセス記念)

今日は土用の二の丑の日だった。こないだの丑の日といい妙に気にかけているようだが、買い物はもちろん散歩コースにもスーパーがあるんだからついつい立ち寄ってみようというもの。だいたい自動ドアの脇にのぼりがたててある。 国民はさすがについ10日ほど前…