人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

#29.承前『イエスタデイズ』

イメージ 1

イメージ 2

イメージ 3

ジェローム・カーン作曲の『イエスタデイズ』で面白いのは、一見AA'BA''32小節のありふれた小唄だが、A'の末尾2小節から転調しBの末尾で転調した調がわかる、という構造になっていて、長三度転調というのはありそうであまりない。具体的にはA部はDm、B部はG7になっている。
この転調がなんとも不安定な、歌詞の内容からすれば虚無的な喪失感を感じさせるようなコード進行になっており、この移ろうような転調をどう表現するかが演奏のキモだろう。

サックス奏者にとっては、バップ的な和声的アプローチよりも旋律的な非バップ的アプローチが有効になるだろう。それはぼくの資質にも合っている。
この転調が意外に曲者で、長三度上昇するが、実際のコード進行は下降していって長三度に落ちつく。いわゆる逆循、というコード進行だが、一曲の全体が逆循(一例『恋とはなんでしょう』)よりもこうした部分転調のほうがやりづらい。明確な転調に聴こえないからだ。

だからベーシストには「曖昧かつ明確」という難しい課題を突きつけられる曲でもある。和声の下降を担うのはベースの役目になる。一般的に、メロディが上昇する時はコード進行は下降し、ベース・ラインもそれに準じる。1小節ごとに下降していかなければならないが、単純な下降では面白くない。そこで「曖昧で明確」という矛盾した要素を同時に表現しなければならなくなる。

ぼくとKは『イエスタデイズ』を演奏してみてすぐ、オーネット・コールマンの『ロンリー・ウーマン』との類似(「ジャズ来るべきもの」59・画像3収録)に気づいた。AABA型式、キーも一緒だし、部分転調も一緒だ。もちろん『ロンリー・ウーマン』のようなシンコペーションポリリズム構造は『イエスタデイズ』にはないが、スタンダード曲を演奏するからにはテーマ部は原曲に忠実に朴訥とした4ビートでいいし、コード進行も素朴に再現すればいい。アドリブに入れば折衷的なモード奏法が使えるだろう。A部はDm、B部はG7のワンコードで通し、それぞれにはドリアン・モード(短調系)、ミクソリディアン・モード(長調系)で明確に転調を示せる。

その時、リー・コニッツチャーリー・ヘイデンの、「スウィート・アンド・ラヴリー」(画像2)が発表されたのだった。そこではぼくとKの考案と同じ手法で『イエスタデイズ』が演奏されていた。