人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

魍猟綺譚・夜ノアンパンマン(2)

 窓辺に小鳥がさえずる鳴き声でアンパンマンは目を醒ましました。今日もいつもの平和な朝です。アンパンマンはうーん、と伸びをすると、パジャマを脱いでいつもの姿になり、マントをはおりました。マントとブーツ以外は、アンパンマンはいつでも同じ姿なのです。就寝する時はマントとブーツを脱いでパジャマをはおる、というだけです。今日もがんばるぞ、とアンパンマンは習慣的に意味もなく思うと、ジャムおじさんに朝いちばんの焼きたてあんパンと頭を取り替えてもらいに行きました。アンパンマンの朝いちばんの仕事はしょくぱんまんカレーパンマンと分担しているパトロールなので、毎朝新鮮な焼きたてパンに頭を取り替えてもらわなければならないのです。
 ジャムおじさんパン工場で、誰よりも早く起きて働いていました。助手は居候のバタコさん、見張りは(まだアンパンマンたちは起きてこない時間なので)めいけんチーズです。チーズはなかなか賢く人の言葉を解して知能も小学生並みにありますが、畜生の悲しさか人間の言葉は話せません。しかしこの世界で起きることで、チーズのうなり声とジェスチャーで伝達できないことなどめったにありませんでしたから、むしろ人権など顧慮しないでかまわない分チーズは便利な万能犬でした。
 やっぱりひと晩たつと皮も堅くなるなあ、とアンパンマンは思いながら、鏡に向かって自分の顔を乾拭きしました。朝起きて顔を洗うのは人間の習慣ですが、アンパンマンたちがそれをするとパン生地が水を吸って無惨なことになるのです。アンパンマンなんかまだいいよ、とカレーパンマンは言いました、しょくぱんまんなんかもっとガサガサでひび割れている時まであるってさ。もちろんおいらもコロモがボロボロ、そうでなければベタベタで、まくらカバーのかわりに新聞紙を敷かなきゃならないよ。
 だからぼくがリーダーなのかな、とアンパンマンは思うのでした。食パン頭とカレーパン頭、あんパン頭では、比較的標準的ヒューマノイドに近いのは形状・構造的にあんパンマンになるでしょう。ジャムおじさんの直営ファミリーには後から妹分のメロンパンナちゃんも加わりましたし、末っ子キャラのクリームパンダちゃんも比較的新顔でしたが、彼らはせいぜいアンパンマンたちをおびき寄せるためにばいきんまんの罠にかかるのが主な役割です。
 そう、ばいきんまん!その頃ばいきんまんは、今朝も秘策を練っていました。