人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Sun Ra and his Myth Science Arkestra - Angels and Demons at Play (El Saturn, 1965)

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Sun Ra and his Myth Science Arkestra - Angels and Demons at Play (El Saturn, 1965) Full Album : http://www.youtube.com/playlist?list=PLm4w7C3_vBphxLVJrnyIXFXRrSTDkPfYt
Recorded RCA Studios, Chicago, around February 1956 (Side B), at RCA Studios Chicago, around June 17, 1960 (Side A)
Released by El Saturn Records, El Saturn 407, in between 1965 to 1967
All titles were written by Sun Ra, except where noted.
(Side A)
A1. Tiny Pyramids (Ronnie Boykins) - 3:38
A2. Between Two Worlds - 1:56
A3. Music from the World Tomorrow - 2:20
A4. Angels and Demons at Play (Boykins) - 2:51
(Side B)
B1. Urnack (Julian Priester) - 3:46
B2. Medicine for a Nightmare - 2:16
B3. A Call for All Demons - 4:12
B4. Demon's Lullaby - 2:35
[ Sun Ra and his Myth Science Arkestra ]
(on Side B; February 1956)
Sun Ra - Piano, Electric Piano
Art Hoyle - Trumpet,
Julian Priester - Trombone
John Gilmore - Tenor Sax
Pat Patrick - Baritone Sax
Wilburn Green - Electric Bass
Robert Barry - Drums
Jim Herndon - Tympani
(on Side A1, A4, around June 17, 1960)
Sun Ra - Percussion, Bells, Gong and Piano
Phil Cohran - Cornet
Nate Pryor - Trombone and Bells
John Gilmore - Tenor Sax and Clarinet, percussion
Marshall Allen - Flute
Ronnie Boykins - Bass
Jon Hardy - Drums, Percussion
(on Side A2)
Sun Ra - Piano
possibly Bo Bailey - Trombone
John Gilmore - Tenor Sax
Marshall Allen - Alto Sax
Ronnie Boykins - Bass
possibly Robert Barry - Drums
(on Side A3)
Sun Ra - 'Cosmic tone organ
Ronnie Boykins - Bass
Phil Cohran - Violin-uke
Jon Hardy - Drums

 今回のアルバムもジャケットはサン・ラ御大のデザインによるが、サン・ラのサターン作品中でも名作ジャケットとして知られる。毎回アーケストラの名義が変わるサン・ラだが、今回はMyth Science Arkestraと来た。これは絶対その時の気分で名乗っているだけで、本人たちもどのアルバムがSolar ArkestraでどのアルバムがAstro Infinity Arkestraで、さらにどれがIntergalactic Arkestraで、単にSun Ra and his Arkestraなのか、発売しておきながらも把握していなかったに違いない。
 総称してサン・ラ・アーケストラと呼ぶことにするが(70年代後半からソロ・ピアノのアルバムを出すまでは、バンド形態のものは1955年のシングルかつバンド・テーマ曲「Saturn」以来すべてアーケストラとしての作品と見なせる)、サン・ラ個人のキャリアにとっても初のアルバムである『Jazz by Sun Ra』をデビュー作とすると、ニューヨーク進出とともに制作・発売された『The Futuristic Sounds of Sun Ra』は第2のデビュー作と言って良かった。ここまでを整理したリストを再掲載したい。
(Original El Saturn "Angels and Demons at Play" LP Liner Cover)

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[ Sun Ra & his Arkestra Discography 1956-61 ]
1. Jazz by Sun Ra (Sun Song) (Transition, rec.& rel.1956)
2. Super-Sonic Jazz (El Saturn, rec.1956/rel.1957)
3. Sound of Joy (Delmark, rec.1956/rel.1968)
4. Visits Planet Earth (El Saturn, rec.1956-58/rel.1966)
5. The Nubians of Plutonia (El Saturn, rec.1958-59/rel.1966)
6. Jazz in Silhouette (El Saturn, rec.& rel.1959)
7. Sound Sun Pleasure!! (El Saturn, rec.1959/rel.1970)
8. Interstellar Low Ways (El Saturn, rec.1959-60/rel.1966)
9. Fate In A Pleasant Mood (El Saturn, rec.1960/rel.1965)
10. Holiday For Soul Dance (El Saturn, rec.1960/rel.1970)
11. Angels and Demons at Play (El Saturn, rec.1956-60/rel.1965)
12. We Travel The Space Ways (El Saturn, rec.1956-61/rel.1967)
13. The Futuristic Sounds of Sun Ra (Savoy, rec.1961/rel.1962)

 と、これまでアルバム10までをご紹介してきたので、今回とアルバム12、または13までで一旦サン・ラ連続紹介には区切りをつけたい。サン・ラのアルバムはもちろんご紹介のし応えがあるのだが、さすがに10枚も連続して取り上げてくるとサン・ラ以外のジャズも視野に入れたくなってくる。13『Futuristic Sounds~』がサン・ラ第2のデビュー作とすると、サン・ラが全米のジャズ・ジャーナリズム、また国際的に注目されたブレイク作は1965年録音・発売の『The Heliocentric Worlds of Sun Ra, Volume One』で、制作順では通算22作目に当たるスタジオ・アルバムだった(ライヴ盤を入れると24作目、このブレイク翌年からライヴ盤の制作が爆発的に増える)。
 幸い現在までにLP発売・CD発売されたサン・ラ音源は(音源と制作・発売データだけだが)すべて収集できたので、アルバム単位でリンクが引けるものは今後も紹介していきたいと思うが(楽曲単位でもご紹介できればアルバム紹介したい)、サン・ラの場合困るのは、とにかくアルバム数が半端なく膨大な上、多作が当然だった時代の大物ジャズマンに数えられるにもかかわらず、創作力のピークが同時代のジャズの推移から大幅に遅れたために主流ジャズの趨勢と関係づけて代表作を絞ることも、一般的に浸透した里程標的な作品も上がってこない、という事情がある。
(Original El Saturn "Angels and Demons at Play" LP Side A Label)

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 つまり大概の著名ジャズマンについては多くのリスナーの中で約束ができている、といえる。キャリアをたどる里程標的な代表作が数年ごとにあり、とりわけ決定的な作品が数作あって、そうしたジャズマンを束ねたものがジャズの歴史と言われるものを形作っている。そこにサン・ラは世代的にも、活動拠点からも外れた場所にいた。サン・ラの音楽は長い間シカゴの聴衆だけを相手に演奏されてきた。もしアーケストラの活動拠点が早いうちからニューヨークだったら、ロサンゼルスだったら、ボストンだったら、と仮定することもできない。シカゴ以外の主要都市でアーケストラのような特異なバンドが成立するのは不可能だったろう。
 サン・ラは全米のジャズ界からは疎外されていたか、といえば、シカゴもまたアメリカ屈指の大都市なのだから疎外されていたとは言えない。むしろシカゴを征していたことでは、ニューヨークやロサンゼルスはサン・ラ・アーケストラに匹敵するバンドを持たなかった。匹敵するのは1920年代末~1930年代前半のニューヨークのデューク・エリントン・オーケストラくらいかもしれない。または1930年代~1940年代前半のベニー・グッドマン・オーケストラを上げることもできるが、ニューヨークが全米のエンターテインメント文化の中心地という前提からエリントンやグッドマンはニューヨークを拠点とすることで全米を代表するジャズマンと考えられた。エリントンは超高級クラブ、グッドマンはもっとカジュアルな白人中産階級向けという違いはあったが。
(Original El Saturn "Angels and Demons at Play" LP Side B Label)

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 このアルバムでサン・ラは、50年代録音のアルバムとしては『Visit Planet Earth』で顕著だったように(ただし発売は『Angels and Demons at Play』が1965年、『Visit Planet Earth』は1966年)A面とB面を異なる作風で統一している。A面はフリージャズ・サイドと言ってよく、1960年の録音当時にすでにニューヨーク進出後の作風を試みたものだろう。A1はオリエンタル・ムードでフルートが効いた名曲、A2はカウベルが印象的なリフ曲。A3は変型オルガン・トリオというか、ヴァイオリンを直接爪弾きして高音域のオルガンと一体化させている。A4は4/8+6/8(4分の5拍子)でランニングするベースにフルートが泳ぐ。A1、A4ともボイキンス作曲の通り、アーケストラのフリージャズ化に貢献度が高かったと思われるロニー・ボイキンスの才能がA面では光る。
 一方B面は1956年2月録音と、1956年7月録音のデビュー・アルバム『Jazz by Sun Ra(Sun Ra)』よりも早い音源が使われている。B面はB1、B2ともAA'BA'形式の曲で、B3はブルースになる。B2は『Super-Sonic Jazz』に、B3は『Jazz by Sun Ra』に収められているが、この『Angels and Demons at Play』のヴァージョンの方が古いということになる。B4もブルースで、つまりB面はAA'BA'楽曲とブルースが主体のハードバップ・サイドになる。アーケストラには「Saturn」「Eli is Sound of Joy」「Enlightenment」「Velvet」「Eve」などビッグバンドとハードバップの折衷を狙った曲が主流としてあり、本作ではジュリアン・プリースター(後に単身ニューヨーク進出してマックス・ローチのバンドに加入)作のB1が凝ったアレンジでビッグバンド系楽曲に近いが、サン・ラがシカゴで演奏していたのは1960年時点でもまだこれらビッグバンド~ハードバップ系楽曲だったと思われ、1960年のアーケストラのニューヨーク公演はすでにフリージャズ化した演奏だったらしいが拠点であるシカゴではオーソドックスなスタイルを守り続けていたと思われる。1960年6月17日前後だけでアルバム5枚の録音を決行したのは、ステージでは開陳できないレパートリーを一気に記録しておきたい意味もあったと想像しないではいられない。