人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

セシル・テイラー・ユニット Cecil Taylor Unit - 寄港地 Port of Call (Candid, 1960)

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セシル・テイラー・ユニット Cecil Taylor Unit - 寄港地 Port of Call (Cecil Tayor) (from the album "The World Of Cecil Taylor", Candid Records 8006, 1960) : https://youtu.be/aFvIe1ddB1o - 4:22
Recorded at Nola's Penthouse Sound Studios, NYC, October 12 & 13, 1960
Released by Candid Records Candid ‎8006, 1960, Supervised by Nat Hentoff
[ Cecil Taylor Unit ]
Cecil Taylor - piano
Buell Neidlinger - bass
Denis Charles - drums

 フリー・ジャズ・ピアニストのセシル・テイラー(1929-、近年までは1933年生まれと間違って伝えられていました)は富裕層の黒人は白人と同等だったボストン出身でしたので、初めて好きになったジャズは大学の学園祭ツアーを主な仕事にしていたデイヴ・ブルーベック・カルテットだったと言います。すぐに熱心なマニアになったテイラーはセロニアス・モンクバド・パウエルを聴くようになり、またバップを過激化させて独自のクール・ジャズにたどり着いたレニー・トリスターノにも熱中しました。当時ボストンのローカル・シーンのトップ・ピアニストは夭逝の天才リチャード・ツワージク(1931-1955)で、ツワージクは白人でしたがすでにモンク、パウエル、トリスターノを消化した演奏ができ、チャーリー・パーカーの頻繁なボストン公演では第一指名ピアニストであり、ボストン公演で目をつけたチェット・ベイカーに誘われてチェット・ベイカー・カルテットのピアニストになりましたがすぐに行われたヨーロッパ・ツアー序盤のパリ公演直前にパリのスタジオでアルバム1枚の録音を済ませ、ツアー序盤でオランダ公演まで進んだ頃(ライヴの発掘音源あり)に薬物中毒で急逝してしまいます。享年25歳で、生きていたらビル・エヴァンスセシル・テイラー級のピアニストに成長した可能性があった人でした。
 テイラーは他人のバンドに客演せず自分のバンドのメンバーにも他のバンドとの掛け持ちを禁じる頑固なピアニストでしたが、オーネット・コールマン(1930-2015)より2年早くアルバム・デビューしていたので本格的な成功作となった本作までに5枚のアルバムがありました(『Jazz Advance』Transition'56、『The Gigi Gryce-Donald Byrd Jazz Laboratory and The Cecil Taylor Quartet at Newport』Verve'57、『Looking Ahead』Contemporary'58、『Hard Driving Jazz』United Artists'58、『Love For Sale』United Artists'59)。いずれもフリーランスのプロデューサーのトム・ウィルソンの斡旋によるものでしたが、『The World Of Cecil Taylor』は影響力の強いジャズ批評家のナット・ヘンホフによる新設インディー・レーベル、CandidでインディーのTransition(トム・ウィルソン主宰の短命レーベル)以来ひさびさに完全な創作の自由を許されたものでした。テイラーのオリジナル曲は超人的テクニックに裏打ちされたもので余人にカヴァーできるものではなくスタンダード化した曲はありませんが、アルバム中でももっともコンパクトで疾走感にあふれたスリリングな名曲をお聴き下さい。バド・パウエルの「Un Poco Loco」がそうだったような、ピアノ・トリオ編成(テイラーは自分のバンドをトリオやバンドと言わずユニットと呼びました。音楽グループでユニットと名乗ったもっとも早い例で、テイラーほど創造性を目指さしたグループこそユニットと名乗る資格があり、創造性のかけらもないグループがユニットを自称するのは笑止千万です)ならではの楽曲です。これもジャズの名曲列伝に連なる逸品と言える1曲でしょう。また、テイラーが永年のライヴァルで盟友、オーネット・コールマン逝去の際の追悼式典で披露した追悼演奏のソロ・ピアノ演奏の記録映像もご紹介します。86歳のセシル・テイラーによるフリー・ジャズのソロ・ピアノ演奏がこれほど若々しく、美しく、瑞々しく感動的なのは驚嘆すべきことでもあり、セシル・テイラーほどの人ならばこれも当然という気もします。
Cecil Taylor Solo Piano at Ornette Coleman Memorial Ceremony 2015 : https://youtu.be/bF9ZbULKOXQ - 5:13