人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

クラフトヴェルク Kraftwerk - '70年TVライヴ Rockpalast 1970 (Unofficial DVD)

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クラフトヴェルク Kraftwerk - '71年TVライヴ Rockpalast 1970 (Unofficial DVD) Full Broadcast : https://youtu.be/YF1B4smQL7s
Recorded live at at Stadthalle, Soest, Germany, November 1970
Newly Re-Broadcast on German WDR network in HD, 2014
All tracks written by Ralf H?tter and Florian Schneider-Esleben.
(Tracklist)
1. Stratovarius - 16:44
2. Ruckzuck - 10:41
3. Heavy Metal Kids - 9:48
4. Improvisation 1 - 10:42
[ Kraftwerk ]
Florian Schneider-Erleben - flute, violin, percussion
Ralf Hutter - electronics
Klaus Dinger - drums

(Unofficial Rockpalast 70 DVD Liner Cover & Miscredited Unofficial CD Picture Label)

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 2014年に西ドイツ国営放送局(WDR)で再放送され良質のHDマスター映像が出回るようになった'70年11月収録の観客入りスタジオ・ライヴがこれです。音源だけは以前から「June 12, '71」とミスクレジットされて出回っており、そちらではメンバーはフローリアン・シュナイダー、ミヒャエル・ローター、クラウス・ディンガーとなっていました。実際クラフトヴェルクは'71年にはオリジナル・メンバーでフローリアン・シュナイダーとともにバンド創設者のラルフ・ヒュッターが一時学業のため抜けて、ピンチヒッターにミヒャエル・ローターを迎えたそのメンバー編成で'71年6月25日放映のラジオ局の公開ライヴに出演しており、ローターとディンガーはヒュッター復帰と入れ替わるように独立してノイ!を結成し、'71年に早くもデビュー・アルバムをリリースしています。'71年6月のラジオ出演のデータに基づいて、音声のみエアチェックされていた'70年11月音源が'71年6月音源と混同されていたのでしょう。現在では'71年6月音源も新規に発掘されて、セットリストはほとんど同じですが従来混同されていた'70年11月のエアチェック音源とは音質も比較にならないほど良く、演奏もヒュッター入りとローターの代役ではかなり異なるものなのが各種流通しているUnofficial盤で聴き較べることができます。ジャケットを掲載した版が入手しやすくマスター状態も良好で、どちらも聴きたい方には'70年11月映像(DVD)と'71年6月音源(CD)のカップリング版がお薦めできます。

(Unofficial Rockpalast 70 c/w Bremen Radio 71 DVD/CD Front & Liner Cover)

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 このライヴ映像で観られるクラフトヴェルクはロックのコンサートのつもりでTVスタジオに詰めかけた観客が戸惑うような演奏をくり広げており、オン・ビートになると観客も喜んで手拍子を打つのですがすぐに定型リズム・パターンは消滅してしまうので観客戸惑う、するとまた演奏にビートらしいビートが現れるのくり返しで、ロックパラスト映像は他にもエロイやフランピーなどハード・ロック勢、カンやグル・グルなどエクスペリメンタル勢らの映像が残されていますが、当時クラフトヴェルクの他にも同傾向のグループはいたとはいえロックバンドのライヴなのにビートがない、というのは観客にしても乗りようがなくて困った様子が見受けられます。同じ実験派とはいえカンやグル・グルは相当屈折しているものの乗れるビートがちゃんとあったわけです。しかもここでのラルフ・ヒュッターは革ジャンでステージに上がっており、フローリアン・シュナイダーにしても見かけはまるで後年のクラフトワークとは思えないロックバンドみたいな風貌です。しかし演奏はかなり荒っぽいながらもすでにデビュー・アルバムの人力インダストリアル・テクノ路線で、やっぱり特にアルバム代表曲の「Ruckzuck」の出来が突出していますがキメもなければヤマもない演奏で、しかもカンやグル・グルを始め当時のドイツのエクスペリメンタル・ロックがサイケデリック・ロックメディテーション・ミュージックを発想の基本にしていたのに対してクラフトヴェルクの実験は純粋に音響的興味によるものでした。
 つまりフルート兼ヴァイオリン、電気オルガンのどれをもノイズ発信機として用い、バンドらしい演奏をしているのはドラムスだけというアンサンブルです。これが音色変化のコントロールと反復精度の高いエレクトロニクス楽器に置き代わり、のちのテクノのクラフトワークになるのですが、本当に初期の実験段階ではどんなライヴをしていたかをB/Wながらフィルム撮影による映画レベルの高画質で捉えたこの映像は歴史的価値以上に独自の映像作品として楽しめるものです。クラフトワークがこれをオフィシャル発売することはまずあり得ないでしょうが、案外本人たちもこの映像の発掘にはまんざらでもない気分なのではないでしょうか。