人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

#17.承前『ウェル・ユー・ニードント』

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ジャズでは多くがホーン奏者がリーダーで、かつジャムセッションでも選曲権を握ることが多いのは、ロックやポップスでヴォーカリストの務める役割を考えるとわかる。ヴォーカリストが歌えない曲はバンドのレパートリーにはならないわけなので、器楽音楽としてのジャズもメロディを担当するホーンがが吹けない曲では演奏しようがない。

実は新宿ピットインでジャムセッション・デビューした時に「なにかポピュラーなスタンダードを」「じゃあ『枯葉』を演ろう」ということになって、実はぼくは『枯葉』をそれまで吹いたことは一度もなかった。これが『オン・グリーン・ドルフィン・ストリート』や『バイ・バイ・ブラックバード』と言われたら「すいません。演ったことないんです」と他の曲にできたが、『枯葉』、と言われて「吹けません」とは言えない。だからフリー・ジャズ的なアプローチで始まったのはぼくにはありがたかった。アドリブで前奏中に断片的にテーマ・メロディを拾い上げてこれならいけるぞ、というところまで引っ張っていけたからだ。

ぼくはピットインへの参加回数ごとに参加曲数を増やしてもらえたが、有望プレイヤーの選抜バンドには一度も選ばれなかった。基礎的な演奏技術が未熟だったからだ。なのに参加曲数では優遇されたのは、ぼくには奇抜なアイディアと実験意欲があり、予測のつかないソロをとりながら構成はきちんとしていて、早い話聴いていて面白いサックス奏者だったからだ。ただし正統的なジャズの演奏テクニックはまったくない。

だが高田馬場イントロではこんな具合だった。
「腕のないやつが開き直っていやがるとムカムカするんだよな」とぼくの斜め前の男が言った。同じテーブルにいたベーシストの男が「いいんじゃないの?みんな好きなようにすれば」ととりなした。ぼくはステージから下りてきたばかりだから、聞こえるようにあてつけを言っているのは明らかだ。次は彼の出番になった。ぼくと同じアルトサックス奏者だ。
なるほど、これが彼の言う「腕前」ね、とぼくはやたら太い金の指輪をはめた彼の左手中指を見ながら考えた。昔の有名アルト奏者のフレーズの寄せ集め。これはパーカー、これはキャノンボール、そしてフィル・ウッズと、いったいなにを言いたいのか、おれはこれだけ吹けるんだぞ、としか聞こえない。だがぼくはぼくのやり方でやる、それでいい。