人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟の思い出25

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・3月16日(火)晴れ
(前回から続く)
「夕方、第三病棟からHA(25歳)とKmさん(男性、異様に眼光が鋭い。一見組関係風)が移ってくる。HAは他にも空いている席があるのに隣にやってくる。彼女がやばい患者なのはこの数日間の観察でわかった。右にKくん、左にHA、まるで挟み撃ちだ。ただ彼女の食事と食札を見て驚いた。アレルギーが14品目もある。うどん以外麺類不可(ラーメン、そば、スパゲッティ)で米食・パン不可(喘息の発作が起るらしい)、乳製品不可、玉子(魚卵含め)不可、鶏・豚・牛肉不可、魚肉(青魚・白身とも)不可。海藻不可。だから毎食具のないうどんだけ食べているのだ。統合失調症の入院歴は九歳かららしい。精神疾患は置くとしても、一体どうしたらそんなアレルギー体質になるのだろうか」

「Kくんは、あの女は八方美人で嫌いだ、と言いながら、なぜYくんやIくんに紹介するんだろう、と思うが(注1)彼自身が矛盾と非合理の塊なのに、おれは非合理なことやそういう人間は許せねえんだよ、と言ってはばからない。HAは若いなりに肌の張りは良いのに吹き出物は多い。調子よくふるまっているが相応にストレスを抱えているのだ。だけど明日は別の席に行ってくれないかな、と思う。躁状態の人間が二人もいる食卓ではたまらない」

・3月17日(水)晴れ
「入院三週間目、昨夜も寝つけず、深夜の無人のデイルームで第二病棟の席次表を作る。廊下から射し込む灯りを頼りにテーブルをまわりながら名前を筆写していると、こんな姿見られたら退院を延ばされるな、もし何か事があったら真っ先に疑いがかかるな、と内心びくびくしながら作成を終えてホッとして一服、そこそこの寝つきになる」

「朝は血液検査で六時半に看護婦に起される。採血後少し寝直し、平穏な朝食。午前の学習プログラムは全体会と、課長の海外と日本のアルコール浸透史と断酒会の歴史講義。課長来るなり、ここでは狭いでしょうとあっさり隣のHAをYmさん前に席替えさせる(注2)。午後は薬物教室。午前も午後も学習で、さすがに終了後は疲れた雰囲気になる」(この日続く)

(注1)Kくんが本能的に彼女を嫌ったのは鋭かった。
(注2)課長の指示は過去に根拠のある、意味深長なトラブル回避だったのも後で判明した。YmさんはHA九歳の初入院からの顔見知りでもあった。