人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟入院記142

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・4月3日(土)晴れ
(前回から続く)
「Ntくんが椅子を投げて暴れた現場に居合わせたわけではなく、まだ第三病棟に待機入院していた頃に面識があるだけで、彼の言動も椅子投げ事件も、その結果のグループホーム入居申請取消しも、やはり第三病棟で知り合ったSiくんから聞いたことだ。だが彼が第一病棟に移されたのはこの若い女性入院患者から初めて聞いたし、Siくんの話から医療スタッフとの意志疎通がこじれた結果の椅子投げ事件だと早合点してしまった。関連がないわけではないかもしれない。が、それ以前に声が聞こえてきてしまうような病状だとは、穏やかで端正な彼の容貌から受ける印象からは想像もつかなかった」

「声が聞こえてきて制御不可能な状態になる、というのは統合失調症の慢性化状態では割とありふれた症状と知ったのはSd病院に入院していた時で、高齢で無口な男性患者が廊下ですれ違いざま、突然ものすごい形相で殴りかかってきた。痩せ衰えて力も弱いので両腕をつかんで受けとめ、ナースステーションまでずるずる引きずっていき、成り行きを男性看護師に説明して引き渡した。デイルームに戻ると、ぼくもやられましたよ、と唯一普通に会話ができる短期入院の男性に話しかけられた。退院予定日が決っているのは彼と自分のふたりだけ、という長期入院の慢性化患者病棟だったので、これをきっかけに親しくなった」

「後から看護師に説明を求めた。もし妄想からくる怨恨だったらまた襲いかかってくるかもしれない。それはないです、と看護師は笑い、突然声が聞こえてきてしまうんですよ、殴れ、とかね、本人もひと晩寝れば忘れています。実際翌朝顔をあわせても殴ってくるような様子もなければ前日のことを憶えている様子もなかった。安堵した一方、殴られ損かよ、とも思わずにはいられなかった」

「あんなおとなしそうな人がねえ。ええ、でも今でも聞こえてくるらしくて、第一病棟に来てもしばらくは怖がって自分の部屋から出てこなかった…。普通に見えるのにねえ。そうですよねえ。すると買い物帰りのSaさんが戻ってきた。早いですね。そんなことないわよ。息子は30。19の時に結婚して20の時に生んだの。すぐ離婚しちゃったけど。あ、急がなきゃ、じゃね。お元気で。Saさんが去って若い女性が、テンション高いですね。今はそういう時期なんでしょう」(続く)