人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Osanna-"Preludio,Tema,Variazioni E Canzona(Milano Calibro 9)"Italy,1972

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Osanna-"Preludio,Tema,Variazioni E Canzona(colonna sonora del film Mirano Calibro 9)"(Full Album/Italy,1972)
https://www.youtube.com/watch?v=KcOCsvAz5yU&feature=youtube_gdata_player
[Tracce]
(Lato A)
1.プレリュード Preludio-4:10 (Luis Bacalov)
2.テーマ Tema-4:50 (Luis Bacalov)
3.ヴァリエーション1. Variazione I (To Plinius)-2:10 (Luis Bacalov-D.Rustici)
4.ヴァリエーション2. Variazione II (MY Mind Flies)-5:05 (D.Rustici-Lino Vairetti)
(Lato B)
1.ヴァリエーション3. Variazione III (Shuum...)-1:38 (Luis Bacalov-D.Rustici)
2.ヴァリエーション4. Variazione IV (Tredicesimo cortile)-1:30 (D.Rustici)
3.ヴァリエーション5. Variazione V (Dianalogo)-2:08 (D.Rustici-Lino Vairetti)
4.ヴァリエーション6. Variazione VI (Spunti dallo spartito n* 14723/AY del Prof. Imolo Meninge)-2:50 (D.Rustici-Lino Vairetti)
5.ヴァリエーション7. Variazione VII (Posizione raggiunta)-1:25 (D.Rustici)
6.カンツォーネ Canzona (There Will Be Time)-4:55 (Gianfranco Baldazzi, Luis Bacalov, Sergio Bardotti)
[Musicisti]
Luis Bacalov - arrangiamenti, direzione orchestra
Elio D'Anna - sassofono soprano, sassofono tenore elettrico, flauto, voce
Danilo Rustici - chitarra elettrica, chitarra acustica, voce
Lino Vairetti - voce, sintetizzatore (ARP)
Lello Brandi - basso
Massimo Guarino - batteria, percussioni, vibrafono, voce
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 1971年から74年まで年1作ずつ発表されたオザンナのアルバムで、日本での一番人気はこのセカンド・アルバムになるだろう。邦題に定着している『ミラノ・カリブロ9』は本来は副題で、『プレリュード、テーマ、ヴァリエーション・アンド・カンツォーネ』が正式タイトル、副題に映画『ミラノ・カリブロ9』サウンドトラックとある。
 この作品はルイス・エンリケス・バカロフがニュー・トロルスと組んだ71年の『コンチェルト・グロッソ』に続くオーケストラとロック・バンドの共演作第二弾で、バカロフはさらに73年にイル・ロヴェッショ・デラ・メダーリャの『汚染された世界(コンタミナツィオーネ)』を手がけて三部作とした。さらに『コンチェルト・グロッソ』も2、3と制作して『コンチェルト・グロッソ三部作』に発展させるが、異なるバンドで年一作ずつ手がけてみた『コンチェルト・グロッソ』『ミラノ・カリブロ9』『汚染された世界』三部作は70年代イタリアン・ロックの金字塔として80年代にはすでに古典的定評があった。
 オザンナの4作は『ミラノ・カリブロ9』『パレポリ』『人生の風景』『ルオーモ』の順にキング・レコードのヨーロピアン・ロック・コレクションから発売されたが、これはそのままアルバムの人気順で、この辺にまで手を出し始めたのがアナログ盤からCDへの移行期間だったから輸入盤か中古盤に頼るしかなく、『人生』『パレポリ』『ミラノ』は割とすぐ入手できたものの『ルオーモ』とオザンナの分裂バンドのウーノは新品取り寄せを輸入盤店に注文したが遂に到着しなかった。オザンナのもう一方の分裂バンドのチッタ・フロンターレと弟バンドのチェルヴェッロは内外ともに廃盤中だったが、毎日通勤ついでにこの辺のロックの専門レコード店を覗いていれば出てくるものだ。ただしキングのヨーロピアン・ロック・コレクションは廉価盤でオリジナル初回プレスなら何十万円もするような稀少盤が手に入るのは嬉しいが、ジャケットは粗悪で作品によってはカセットテープ以下の音質のもの(ホークウィンドの『宇宙の祭典』『絶体絶命』変形ジャケ写もペラジャケに。ホークウィンドじゃ仕方ない気もするが)もあった。今豪華変形ジャケをミニチュア再現した『絶体絶命』のピカピカの音のCDを聴いていると、これの倍以上の値段でパチモノLPを買って聴くしかなかった過去が実に貴くかんじられる。今は何でも簡単に手に入りやすくなってしまった。いや、購入する必要すらなくサイト上でアルバム全編を試聴できるのだが、カロリーは同じでも摂取する栄養価にはジャンクフードと手料理以上の開きはないか。
 31分しかない『ミラノ・カリブロ9』は単体アルバムよりも輸入盤で安価に出回っているファースト・アルバム『ルオーモ』との2LPイン1CD盤をお薦めしたい。あくまで映画サントラである『ミラノ』にある制約はデビュー作にはなく、このデビュー作にはその後のオザンナが開花させる要素がすべて詰まっている新鮮な作品で、サントラの『ミラノ・カリブロ9』だけ聴くよりレギュラー・アルバムを併せて聴くに越したことはないからだ。
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 このアルバムはB級映画のサントラらしいとは知られていたが(『コンチェルト・グロッソ』もそうらしい)映画の実物が初めて日本で知られたのは2004年にヴェネチア映画祭で特別上映されたことに伴うDVD化による。タランティーノが師と仰ぐB級ギャング映画の巨匠、フェルナンド・ディ・レオ初期の代表作とされ、内容は日本で言うやくざ物で、マフィアの資金が白紙にすり替えられ疑いをかけられた主人公ウーゴは、真犯人を突き止めるため奔走する、という犯罪アクションらしい。キャストは無名俳優ばかり、もちろん『ミラノ・カリブロ9』は日本のイタリアン・ロックのリスナーには大人気アルバムなのでオザンナのサントラ担当作として期待して観た人にはB級アクション映画なので不評、イタリアB級アクション映画の愛好家にはオザンナの音楽はサントラっぽくなくて不評という面白い一致をみた。確かにオザンナの音楽はアート・ムーヴィー系の作品の方が合っていたかもしれない。
 ピンク・フロイドのサード・アルバム『モア』は同名のフランスのアート・ムーヴィーのサントラだが、収録曲は次作『ウマグマ』と共に本来はサントラではないアルバム構想があり、ライヴでは『ザ・マン』と『ジャーニー』の二つの組曲として演奏されていたことが判明している。オザンナの場合はどうだったかを推定すると、アレンジャーで作曲家のバカロフ単独作曲はA1、A2しかなく、映画のモチーフになったのはこの2曲だろう。アルバム最終曲はバカロフが映画プロデューサーと作詞家の三人で共作したエンディング・テーマ曲でヴォーカル曲だが、映画プロデューサーは名義だけだろうし、歌詞はイギリス詩人T.S.エリオットの長詩『聖灰水曜日』『四つの四重奏曲』からアダプトしたものを英語詞でまとめている。バカロフの関与は他はA3とB1がオザンナのギタリストのダニロ・ルスティチとの共作で、A4、B2、B3、B4、B5はダニロ単独作曲かヴォーカルのリノ・ヴァイレッティとの共作だから、本格的なヴォーカル曲はA面とB面の締めくくりにあるだけだが(他の曲ではサウンド・エフェクト的に使われている。ま、サントラだし)、A面がバカロフ・サイド、B面がバンド・サイドとはっきり分かれていた『コンチェルト・グロッソ』とは違って、バカロフはアルバムのA面とB面冒頭、B面ラストにバカロフ作の雄大なバラードが来る以外はオザンナ単独作曲演奏で、実は意外とバンド主導のアルバムなのだった。ただ気になるのは、他のアルバムではギターと同等か場合によってはそれ以上に、凶悪にもなりリリカルにもなるエリオ・ダンナのフルートとサックスの出番が少ないことだ。ダニロのギターは大暴れしているし、ヴォーカル曲が少ないがリノのアコースティック・ギターやキーボードはセンスがいい。でもいつものオザンナほど破天荒なサウンドじゃないなあと思ったら、エリオ・ダンナの活躍が少ないからだった。
 ルイス・エンリケス・バカロフのロック三部作全体の人気から『ミラノ・カリブロ9』はオザンナの人気作でもあるのだが、トロルスやメダーリャのアルバムと較べても『ミラノ』はバカロフの手はあまり入っていないアルバムなのがよく聴くとわかる。だったらオザンナのアルバムとしてはサントラではない他3作の方がいいではないか。原石の輝きがある『ルオーモ』、見事に散ってみせた『人生の風景』も素晴らしいが、やはり最高傑作『パレポリ』だよなあ。だがあのアルバムは最初に聴くオザンナには向いていない。『ミラノ』だと本来のオザンナとはちょっと違うオザンナに誤解されるが、『パレポリ』は頭から爪先までオザンナではある。だが、1973年のアルバムだからそういうものだと思ってほしいが、1枚のCDに3曲しか入っていない。18分半、2分(ここまでがLPではA面)、22分(B面全編)というまるでプログレッシヴ・ロックのような構成。実物は案外わかりやすい、面白い音楽なのだが、ポップスとしてのコンパクトなまとまりはいきなり『パレポリ』を聴かされても感じ取れないだろう。
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 そんなわけで、これからオザンナを聞こうという方には全4作から満遍なく選んだベスト盤CDか、『ルオーモ』と『ミラノ・カリブロ9』をカップリングした2LPイン1CD盤(2作合わせて65分しかない)をお薦めする。ベスト盤は『ルオーモ』から3曲、『ミラノ・カリブロ9』から3曲、『パレポリ』A面全編(2曲)、『人生の風景』から3曲、ボーナス・トラックでウーノのアルバムから1曲。ウーノをわざわざ入れなくてもいいし『ミラノ』からはテーマとカンツォーネだけでいいだろ、その分『ルオーモ』と『人生の風景』を1曲ずつ増やしたい、とちまちま文句はあるとはいえ、『パレポリ』A面こそがオザンナの最高傑作なので、良好なリマスター音源で聴ける廉価盤ベストCD中に『パレポリ』A面全編が入っているだけでも推奨できる。ベスト盤の流れの中で聴くと、構成の複雑さよりも、組曲としてのパート単位の曲の乗りの良さや美しさ、ヘヴィ・ロックへの展開などがわかりやすく入ってくるのだ。輸入盤の新品で1200円程度で売られています。また、2イン1CDではセカンド・アルバムははっきり『プレリュード、テーマ、ヴァリエーション・アンド・カンツォーネ』が正式タイトルになっている。『パレポリ』『人生の風景』は、『ルオーモ』と『ミラノ・カリブロ9』で出揃った音楽的アイディアをよりスケールの大きな作品に仕上げたものなので(アルバム収録時間も長いし)、初期2作はこの2イン1で十分でもある。デジ・パックの表紙裏にきちんとオリジナル・アルバムから転載したデータもまとめられている。これがですねー、イタリア版ウィキペディアとあちこちが食い違っているデータなんですよ。ここではCDに記載されているデータに従いました。
 お次はイル・ロヴェッショ・デラ・メダーリャの『汚染された世界(コンタミナツィオーネ)』のご紹介でバカロフ三部作のご紹介を締める予定です。