人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ピーナッツ畑でつかまえて(74)

 オラたちの出番もそろそろ終わりみたいだナ、としんのすけは呟きました。ええっ、それはどうゆうことなのしんちゃん!とマサオくんが動揺するのをネネちゃんは、あんたオトコでしょっ、ビビるんじゃないわよ!と叱り飛ばしましたが、実はその強がりは虚勢で、内心はマサオくんに負けず劣らずビビっていたのです。しかしネネちゃんはツンデレこそのプライドがあり、それは本物のお嬢さまの酢乙女あいちゃんや、男ひでりのまつざか先生のようには、素直な感情の発露を許さないものでした。
 ねえ?とネネちゃんは風間くんに同意を求めました。こういう時にはネネちゃんはいつも風間くんに話を振るのです。だから風間くんはたいがい、そうだよしんのすけ、とネネちゃんに代わってしんのすけにツッコミを入れる役回りを勤めるのですが、この時ばかりは風間くんもしんちゃんの発言に呆気にとられていました。ど、どうしようボーちゃん、と風間くんはおそらくかすかべ防衛隊唯一の理性である鼻たれ小僧に尋ねました。ボー、とボーくんはいつもの通りに呟きました。
 決まっているじゃあナイか、卒園式をするんだゾ、としんちゃんが言うと、5人はいつの間にか教壇の黒板前に並んで立っていました。黒板にはしんのすけの汚い字で「ふたばようちえんそつえんしき」と大きく殴り書きしてありました。しんちゃんは園歌斉唱の音頭をとり、卒園児代表の悼辞を読むと、オラが組長せんせいの役を演るゾ、とサングラスをかけて教壇に上がりました。なによ、これリアルおままごと?とネネちゃん。
 しんちゃんはマサオくん、ボーちゃん、ネネちゃんを次々と呼んで卒園証書を授与すると、風間くんに授与した後はサングラスを渡して風間くんから自分に卒園証書を渡してもらいました。これは本気の卒園式なんだ、とその時誰もが気づいたのです。
 さて、お見送りの番だナ、としんのすけが言うと、みんなが一斉にマサオくんを見つめました。えっ何ぼくが最初?とひと声残して、マサオくんは消えました。次にボーくんがボー、とだけ言って消えました。アンタたちと残るくらいなら先に行くわよ!と次にネネちゃんが消えました。どういうことだよしんのすけ!と呆然とする風間くんの敏感な耳にしんちゃんがフーッと息をかけると、風間くんもああっ……と呻いて消えました。
 そしてしんちゃんはひとり、卒園証書を握りしめて、旅立ちを見送る人もなく立ち尽くしていました。