人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

トラフィック・サウンド Traffic Sound - Traffic Sound (MaG, 1970)

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トラフィックサウンド Traffic Sound - Traffic Sound (MaG, 1970) Full Album : https://youtu.be/rs7mtL5CMIc
Traffic Sound - Tibet's Suzettes (MaG, a.k.a."Traffic Sound", 1970) Full Album : https://youtu.be/o5eHT43zJ04
Originally Released by Discos MaG Peru, MaG-LPN 2395
Todas las canciones escritas y arregladas por Traffic Sound, Letras de Manuel Sanguinetti (All Composed and Arrenged by Traffic Sound, Lyrics by Manuel Sanguinetti)
Lado A (Side A)
A1. Tibet's Suzettes - 4:45
A2. The Days Have Gone - 3:27
A3. Yesterday's Game - 5:52
Lado B (Side B)
B1. America - 3:02
B2. What You Need And What You Want - 4:15
B3. Chicama Way - 7:02
B4. Empty (Hidden Track) - 1:24
[ Traffic Sound ]
Manuel Sanguinetti - 1゚Voz, Voces, Percusion (lead vocal, vocals, percussion)
Willy Barclay - 1゚Guitarra, Guitarra Acustica, (lead guitar, acoustic guitar, backing vocals)
Freddy Rizo Patron - Guitarra Ritmica, Guitarra Acustica, Bajo (rhythm guitar, acoustic guitar, bass)
Willy Thorne - Bajo, Organo , Piano, Guitarra, Coros (bass, organ, piano, guitar, backing vocals)
Luis Nevares - Bateria, Vibrafono, Percusion, Coros (drums, vibraphone, percussion, backing vocals)
Jean-Pierre Magnet - Saxo, Clarinete, Flauta, Coros (saxophone, clarinet, flute, backing vocals)

バンド名をタイトルにしたアルバムはデビュー作に多いが、ペルーの60年代末~70年代初頭のロックを代表するトラフィックサウンドは第3作でバンド名をそのままアルバム・タイトルにしたため、この第3作は『Tibet's Suzettes』や『III』と呼ばれるようになった。トラフィックサウンドのアルバムは第1作と第2作をすでにご紹介したが、改めてそのディスコグラフィーを掲載すると、
[ Traffic Sound (Peru,1967-1972) Discography]
(Original Albums)
1. A Bailar Go Go (MaG, 1968)
2. Virgin (MaG, 1969)
3. Traffic Sound (a.k.a. III) (a.k.a. Tibet's Suzettes) (MaG, 1970)
4. Lux (Sono Radio, 1971)
(Compilations)
Traffic Sound 68-69 (Background, 1993) *2in1 of "A Bailar Go Go" & "Virgin"
Greatest Hits (Discos Hispanos, 1998)
Yellow Sea Years: Peruvian Psych-Rock-Soul 1968-71 (Vampi Soul, 2005)
(Original Singles)
Sky Pilot c/w Fire (MaG, 1968)
You Got Me Floating c/w Sueno (MaG, 1968)
I’ m so Glad c/w Destruction (MaG, 1968)
La Camita c/w You Got to Be Sure (MaG, 1971-Sono Radio, 1971)
El Clan Braniff c/w Braniff style - Usa version (Sono Radio, 1971)
Suavecito c/w Solos (Sono Radio, 1972)
があり、1968年のシングル3枚の6曲をまとめたアルバム『A Bailar Go Go』が全収録曲英米ロックのカヴァーなので、全曲メンバーのオリジナル曲によるアルバム『Virgin』をセカンド・アルバムながら真のファースト・アルバムとするメディアも多い。以降『Traffic Sound ("III" or "Tibet's Suzettes")』、ラスト・アルバムの『Lux』も全曲メンバーのオリジナル曲により、1971年以降のシングルはアルバムと重複しないオリジナル・シングルになっている(コンピレーション・アルバムや『Traffic Sound』『Lux』のCDボーナス・トラックに収録)。
? (Original MaG "Traffic Sound" LP Liner Cover)

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 トラフィックサウンドは英語詞のバンドだが(ペルーはスペイン語圏)オリジナル曲では歌詞やアレンジを重視しており、『Virgin』以降はアルバム・ジャケットに歌詞と曲ごとの詳細な担当楽器を掲載している。『A Bailar Go Go』に収録された英米ロックのカヴァーからも、トラフィックサウンドはほとんど日本の後期グループ・サウンズと同じ英米ロックからの影響下にあるバンドで、選曲やアレンジのセンスまで日本のGSとそっくりだった。地球の裏と表で同じことをやっていた。それが、突然オリジナルな音楽性のロックに転じて大成功したのが、英米には例を見ない独創的なラテン・ロック作品の名盤『Virgin』だった。部分的なサウンド手法には英米ロックからの影響を残しているが、オリジナリティの方がはるかに大きい。ジャンル的にはサイケデリック・ロックからプログレッシヴ・ロックの橋渡しになるような位置にいるが、特定の影響源を云々する必要もないくらい音楽がのびやかだった。全体の印象は短い収録時間もあってやや小粒なのだが、南米ロックの生んだ珠玉と言って良い、くり返し愛聴に耐える名作だった。
この第3作を聴くと(リンクは同一アルバムだが、音質がかなり異なるので2軒載せた。好みの音質の方をお選びください)、冒頭のアルバム・テーマ曲「Tibet's Suzettes」から前作よりぐっと重厚なサウンドになったことに気づく。多重録音のサックスなどヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレーターやキング・クリムゾンらサックス入りブリティッシュ・ロックのようだし、サックス奏者が持ち替えで吹くフルートもフルート入りブリティッシュ・ロックのムーディ・ブルースやジェスロ・タルのようだ。ギターのリフも太くなり、『Virgin』では2ギタリストのうち1人とキーボード奏者が必要に応じてベースを担当していたが、今回はキーボードはほとんど使わずキーボード奏者がベーシストに徹して、その分2ギターと管楽器の比重が高くなった。早い話、同時代の英米ロックのサウンドに急激に近づいている。
(Background Compilation "1968-1969" CD Front Cover)

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 初の全曲オリジナル作『Virgin』はサイケデリック・ロック全盛期に英米サイケデリック・ロックのカヴァーにいそしんでいたトラフィックサウンドが、いわば自力で作り上げたポスト・サイケデリック・ロックであり、プレ・プログレッシヴ・ロックだった。歌詞は英語のままで、アイディアの源自体は英米ロックに由来するものの、サウンド・スタイルは手探りでオリジナル曲を作る過程で出来上がったから、英米ロックにないトラフィックサウンドならではのオリジナリティが新鮮なサウンドを生み出していたと言える。
だがこの第3作は、英米ロックがプログレッシヴ・ロックのスタイルを完成していく過程を参照しながら作られ、楽曲の均質感や完成度、タイトなサウンドは『Virgin』よりもはるかにハード・ロック的な骨格がしっかりしたものになったが、音楽性は英米ロックにほとんど準拠していて、このくらいのアルバムなら英米ロックには似たようなものがいくらでもありはしないか、というようなものになってしまった。楽曲の出来もアレンジ、演奏も水準以上だが『Virgin』には横溢していたマジカルな創造力はなく、高いミュージシャンシップで作られた単に優れたアルバムに聞こえる。
(Vampi Soul Compilation "Yellow Sea Years" CD Front Cover)

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 もちろんそれは高いハードルをクリアしているし、初期クリムゾン似のサックスや巧みなアレンジ、何よりヴォーカルの良さがどこかで聴いたな、と思ったらナポリのバンド、オザンナ(1971-1974、現在も復活して現役)だった。オザンナは暑苦しいヴォーカルと殺気に満ちたサウンドだったが、声質やアンサンブルは似ているのにトラフィックサウンドはオザンナみたいに殺気立っていない、という違いはある。だが音楽の底流にある情感では、トラフィックサウンドとオザンナは兄弟みたいに似ている。オザンナでは激情だったものが、トラフィックサウンドではもっと快活な気分で表れている。楽曲のメロディ・センスは、トラフィックサウンドやオザンナは英米ロックの水準と照らしてももう抜群に素晴らしい。
このアルバムもA1から隠しトラック(短いピアノ・インスト)のB4まで捨て曲なしで構成に無駄がなく、32分あっという間に聴いてしまうが、そのセンスの良さがアルバム、ひいてはこのバンドのスケールを小さく見せている。トラフィックサウンドもデビュー当時からヴァニラ・ファッジの影響を積極的にかぶったバンドで、このアルバムのオリジナル曲はオリジナル曲のヴァニラ・ファッジに似ているが、もちろんトラフィックサウンドはヴァニラ・ファッジより偉大なバンドだと断言できるし、オザンナの兄弟みたいなバンドだとは先に述べた。トラフィックサウンドに欠けているのはヴァニラ・ファッジやオザンナにはある、大風呂敷を広げて破綻してしまう大胆さで、そこでどうしても素晴らしいが柄の小さなバンドだ、という損だか得だかわからない印象が残る。このサード・アルバムだって秀作なのだが、手探りの傑作だった『Virgin』の名盤というに足る存在感には及ばないのは、制作時の時代的にも地域的にも、仕方ないかもしれない。