あっ、あの、お婆さん、とサルは泡を食って訂正しました。タバコを値切ろうとしたくらいで警察に通報されてはたまりません。ま、間違えました、ゴールデンバットは今たしか210円でしたよね?
遠くからパトカーが近づいてくる音がしました。ああもういいですお婆さん、さいならー。しかしサルの背中は破れた燕尾服でまる空きなので、サルを先頭にカッパ、イヌと直列に並びながら急ぎ足で立ち去るのはいかにハレンチな3匹といえども不審者と思われても仕方ない、と認めないわけにはいかないような情けない気分になりました。どうしようか、とカッパ。とにかく街を出た方が良くはない?とワンピースを着て以来だんだんおカマが板についてきたイヌ。街を出るには?
そう、電車も通っていない街ですが、バスなら走っているはずです。3匹はそれらしい標識はないかキョロキョロしながら一列縦隊で進みましたが、やがて向こうから農民のような漁師のようなオッサンが仏頂面で歩いてきました。こんなオッサンに訊くのは嫌ですが、今日通行人を見かけたのは始めてです。僕が訊くよ、とカッパが列を離れました。サルはつんつるてんの燕尾服、イヌは女物のワンピースと、仲間たちは見るからに怪しいからです。
なにィ、バス停?とオッサンはしょいこを投げ出すとカッパに、お前足を見せてみろ!あのー、あなたはお医者さまですか、とサル。オッサンは無視してカッパの片足から無理やり靴下を脱がすと足の裏を見て、こりゃあ生まれて一度も下駄を履いたことねえ足だな?バス停も知らねえ、下駄を履いたこともねえだと!すると都合良く自転車で警ら中のおまわりが通りかかりました。巡査、不審者だ!とオッサン。うわあ、と3匹は、サルの背中が丸出しなのも隠さず一目散に逃げ出しました。
最初からここへ来れば良かったよ、と露天風呂に浸かる3匹。体も潮気でベタついてたしさ。でもこの後どうする?残りのお金じゃ服も買えないし、街では不審者扱いだし。
買えないなら盗めば?と男湯と女湯の仕切りの岩陰から、ボーイッシュな美女が形の良い乳房も露わに身を乗り出してきました。服なら脱衣場にいくらでもあるでしょ?
そりゃそうです。3匹はおねいさんに代わるがわる感謝しました。でもどうしてアドバイスしてくれるんです?それはね……いずれわかるわ、と美人は女湯に消えました。
服泥棒か、まさかこんなことで、こそ泥になるとはなあ……。