人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Sun Ra and his Myth Science Arkestra - Fate In A Pleasant Mood (Saturn Research, 1965)

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Sun Ra and his Myth Science Arkestra - Fate In A Pleasant Mood (Saturn Research, 1965) Full Album : https://youtu.be/7ctCeopojgw
Recorded at the RCA Studios or possibly at Hall Recording Company (both in Chicago), around 17 June and October 1960.
Released by El Saturn Records, Saturn Research LPSR99562B, 1965
All songs were written by Sun Ra unless otherwise noted.
(Side A) :
1. The Others in their World - 2:15
2. Space Mates - 7:10
3. Lights of a Satellite - 3:39
(Side B) :
1. Distant Stars (Ra, Boykins) - 2:54
2. Kingdom of Thunder (Ra, Allen) - 3:50
3. Fate in a Pleasant Mood - 2:44
4. Ankhnaton - 3:25
total time; 25:57
(Line Up)
The original sleeve credits the following musicians;
[ Sun Ra and his Myth Science Arkestra ]
Sun Ra - Piano
Phil Cohran - Trumpet
George Hudson - Trumpet
John Gilmore - Tenor Sax
Marshall Allen - Alto Sax
Ronnie Boykins - Bass
Eddy Skinner - Drums
(A1-A4, B2,B3&B4 recorded at RCA Studios, Chicago around 17 June, 1960 and B1 recorded at the Wonder Inn, Chicago, around October, 1960)
Sun Ra - Percussion, Bells, Gong and Piano
Phil Cohran - Cornet (except B1,B2)
Lucious Randolph - Trumpet (B1,B2 only)
George Hudson - Trumpet (B1 only)
Nate Pryor - Trombone & Bells (except B1,B2)
John Gilmore - Tenor Sax and Clarinet, percussion
Marshall Allen - Alto Sax, Flute, Bells
Ronnie Boykins - Bass
Jon Hardy - Drums

 録音順では前作に当たる傑作『Interstellar Low Ways』は31分6秒、前々作『Sound Sun Pleasure!!』は24分52秒と短いが、それはこれらがずっと後年の集中的発掘リリースだったからで、『Sound Sun Pleasure!!』と同時録音で録音からすぐ2か月後に発売された名盤『Jazz in Silhouette』1959.5は44分9秒ある。そんな具合にアルバムの収録時間がまちまちなのがサン・ラのマネジメントによる自主制作レーベルのエル・サターン(サターン・リサーチ)らしいところだろう(ちなみにアルバムごとにアーケストラの名称もコロコロ変わる)。
 やはり25分57秒と短い本作は、アルバム発表年代順では『Jazz by Sun Ra』(Transition, 1956)、『Super-Sonic Jazz』(El Saturn, 1957)、『Jazz in Silhouette』(El Saturn, 1959)、『The Futuristic Sounds of Sun Ra』(Savoy, 1961)ときて、最新録音『When Sun Comes Out 』(El Saturn, 1963)に続き一気に1965年に4枚同時発売されたサターン盤の1枚だった。他の3枚は『Angels and Demons at Play』(1956-60録音)、『Art Forms of Dimensions Tomorrow』(1961-62録音)と『Secrets of the Sun』(1962録音)で、この年に新興フリージャズ・レーベルとして話題を呼んだESPから『The Heliocentric Worlds of Sun Ra, Volume One』(邦題「サン・ラの太陽中心世界」)が発売される。
(Original Saturn Research "Fate In A Pleasant Mood" LP Liner Cover)

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 サン・ラが全国的、また国際的に知られるようになったのはアルバム『The Heliocentric Worlds of Sun Ra, Volume One』によって、と言ってよく、ESPのアーティストでも最年長ながらもっとも論議され、評判になったのが長年ジャズ界の未確認バンドとして名前だけは囁かれていたサン・ラだった。サン・ラ・アーケストラはレギュラー・バンドだけあって多産な上に、未発表音源もたっぷりあったので、ESPからの『The Heliocentric Worlds of Sun Ra, Volume Two』『Nothing Is』が順次発売されるのに合わせて年間数枚のアルバムをサターン盤で同時発売していく。サターン盤が好評を呼ぶとメジャーのインパルスから再発盤が発売される、という具合に(本作も1973年にインパルス盤が出た)、本作発売の1965年はついにサン・ラの本格的ブレイクが始まった年になる。
 シカゴからニューヨークに本拠地を移してから『The Futuristic Sounds~』『When Sun Comes Out』、そして『The Heliocentric Worlds of Sun Ra, Volume One』とフリージャズ路線に針路を定めた分、1965年のサターン盤4枚も未発表音源からフリージャズ色の強いものが優先された。サターンからの未発表音源は1966年以降も続くが、ビッグバンド的、ハードバップ的な『Sound Sun Pleasure!!』『Holiday For Soul Dance』などは録音時期は同じか、早いくらいなのに、1970年発売と後年まで発表が持ち越されている。
(Original Saturn Research "Fate In A Pleasant Mood" LP Side A & Side B Label)

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 アルバム単位では収録時間をケチっているが、1960年6月の大量セッションではサン・ラの音楽にはっきりビッグバンド/ハードバップからフリージャズへの転換が見られる。この年はロサンゼルスのオーネット・コールマン・カルテットがニューヨーク進出で話題を呼び、フリージャズというイディオムがジャズ界最新にして最大の音楽的話題になっていた。サン・ラ・アーケストラはオーネットよりやや早くニューヨークに出張公演を行い、新しいジャズのスタイルを模索していたジョン・コルトレーンらに強いインパクトを与えていたらしい。サン・ラのスタイルはセロニアス・モンクチャールズ・ミンガスの領域と重なるものだったが、ソロイストとアンサンブルの関係や音色・和声・リズムの独創性ではサン・ラの音楽はさらに自由度の高いものだった。ジョン・コルトレーンがサン・ラに傾倒したのがシーン全体にサン・ラ評価を促した効果は大きい。コルトレーンはモンク、ミンガス、マイルスをしのいで当時のニューヨーク・ジャズ界を牽引した中堅最大のホープであり、サン・ラやオーネットへの賛辞と影響を隠さなかった。
 本作はニューヨーク進出後の『When Sun Comes Out』より録音時期は早いが、同作を予告する作風の楽曲で統一することで『When Sun Comes Out』の後から発表されても違和感ない内容になっている。1960年6月の大量セッションはニューヨーク公演の手応えの後で、はっきりニューヨーク進出を目的に据えて録音されたと思われるのだが、あまりに大量の録音ストックを抱えて発表の機を1965年以降まで逃してしまった。後から発表された『Interstellar Low Ways』や『We Travel The Space Ways』は、やはり発売の遅れた『Visit Planet Earth』や『The Nubians of Plutonia』と同様完成度の高い、選曲によってアルバム単位のコンセプトを明確に打ち出した作品だった。それらに比較すると、この『Fate In A Pleasant Mood』はほぼ同時発売された、やはり1960年セッション(ただし1956年セッションも含む)『Angels and Demons at Play』同様、アーケストラらしいサウンドではあるがアルバムとしての緊密さではやや緩い作品という弱点がある。『The Futuristic Sounds』や『When Sun Comes Out』よりも聴きやすいフリージャズになっている。事実録音は『Futuristic』の前年なのだから自然なのだが、フリーもビッグバンドもバップもR&Bも何もかも呑み込んだスケールの大きなアーケストラの音楽的ヴィジョンが、『Fate in A Pleasant Mood』では意図的に控え目な選曲によって抑制されているようにも取れる。
(Reissued Impulse! "Fate In A Pleasant Mood" Promotional LP Front Cover)

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 このアルバムはジャケットでのメンバーの記載が正しいが詳細ではなく、トランペットとトロンボーン、特にトランペット奏者に曲によって異動があることが判明している。また全7曲中B1だけがクラブ録音で、他はシカゴのRCAのスタジオ(複数個所)で録音された。B2ではレギュラー・トランペットのフィル・コーランが抜けてルシアス・ランドルフに替わり、トロンボーンのネイト・パイラーも抜ける。そのメンバーでクラブ録音されたB1はトランペットの激しいトリル吹奏が印象的な曲で、この曲だけ2トランペットになるがフィル・コーランではなくジョージ・ハドソンのワンポイント参加で、トリル吹奏はハドソンと推測される。トランペットはこのアルバムではいつものサン・ラのアルバムより目立っている。ただしアルバム全編で印象的なソロのある曲がない。アンサンブルが主体になっている。
 A1やB1の変態バップ、フルートとピアノが美しいA2やラウンジ調のB2、ブルースのB4など十分にサン・ラらしく、聴きやすいフリージャズになっているがサン・ラとしては薄味に聴こえるのは、10人編成を好んだ50年代のサン・ラがここでは金管2、木管2、ピアノ・トリオの7人編成のアーケストラで録音したテイクだけでアルバムの選曲をしていることで、特に木管はマーシャル・アレン(アルトサックス、フルート)、ジョン・ギルモア(テナーサックス)の2人はいるがレギュラー・メンバーのパット・パトリック(マルチサックス、クラリネット、フルート)、チャールズ・デイヴィス(バリトンサックス)がおらず、準レギュラーのジェームス・スポールディング(アルトサックス、フルート)もいない。アレンもギルモアも凄腕プレイヤーだが、天才パット・パトリックの不在が痛い。剛腕ベーシスト、ロニー・ボイキンスの腕は冴え、アルバムの出来は良いのに、どこか決め手を欠いて聴こえるのは、結局突出した演奏の不足によるように思える。