さあ早く乗って、とおねいさんは3匹に、トラックの荷台を指してうながしました。明け方のうちが勝負よ。
今をのがしたらまた逃げられなくなるわ。その前に、とおねいさんは3匹が乗り込むと、国境を越えたら大使館に駆け込むのよ。
僕らを助けてくれるんですか、とサル。見捨てるわけにはいかないもの、とお姉ちゃん、あなたたちがどんな目にあったか一部始終を見ていたんだから、助けないわけにはいかないわ。お姉ちゃんあんたはええ人や、とサルは京言葉で感激しました、世の中そんなに、むごいことばかりやあらへんな。
おねいさんはかけ流しの温泉銭湯で服のすり替えのアドバイスをくれた、あのおねいさんです。3匹はあの時のおねいさんのいかしたヌードを思い出し、こんな緊迫した事態にもかかわらずにやけてくるのを抑えられませんでした。地獄に仏、いや女神さまやで。
トラックは走り出しました。3匹は慌てて荷台の縁につかまりましたが、後ろからこんな戦場には不似合いな高級車が迫ってきます。おい停まれ、このアバズレが!と高級車の窓から眼帯の、顔立ちだけでも肥満とわかる中年男がピストルをかざして怒鳴りました。
お前を育ててやったのはこんなアバズレにするためではないぞ!と眼帯男はピストルをぶっ放しました。気にしないで、とおねいさん。あの、あの方はお父さんで?とサル。夫よ、とおねいさん。ああ、はかないわとサル。もうすぐ駅に着くわ、とおねいさん。
早く下りて、この時間なら検問なしに列車は国境を越えるから。トラックが駅に着くのと毒グモみたいな眼帯男の車が追いつくのは同時でした。早く、急いで!おねいさんの言う通り、早朝の駅は無賃乗車もお構いなしで、3匹は発車待ちの列車に乗り込みました。
列車は走り始めました。車掌も来ないし、と3匹がようやくひと安心していると、あのウサギがまた例の少女と現れたのです。
ウサギはバサッと服を投げて寄越しました。着替えるんだ。こんな所ではできません、とサルとイヌは泣き出しました。
ほう、とウサギ、ならトイレがある。サルとイヌは着替えを持たされました。僕もですか、とカッパ。そうだ、お前も来い。
着替えたらどうするんですか?死んでもらう。あなたは誰を殺すんですか、とカッパ。僕はカッパ、そしてこいつらは英国諜報部少佐ラビット柳瀬と英国武偵高諜報科アリス・リデルです。あなたはあなたたちを殺せますか?
第3章完。