人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

トラフィック・サウンド Traffic Sound - Lux (Sono Radio, 1971)

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トラフィックサウンド Traffic Sound - Lux (Sono Radio, 1971) Full Album : https://youtu.be/RC0rXGjTl8s
Originally Released by Discos Sono Radio Peru,? SE-9362, 1971
Reissued by Lazarus Audio Products? CD-2006, 1997
Todas las canciones escritas y arregladas por Traffic Sound, Letras de Manuel Sanguinetti. "Suavecito" por Abel Zarate, Pablo Tellez, Richard Bean
(Lazarus Audio Products CD Tracklist)
1. Solos (Traffic Sound, Sanguinetti) - 3:16
2. Suavecito (Zarate, Tellez, Bean) - 3:00
3. La Camita (Traffic Sound, Sanguinetti) - 2:46
4. Lux (Sanguinetti, Barclay) - 2:55
5. El Gusano (Rizo Patron, Sanguinetti) - 3:57
6. White Deal, Poco, Big Deal (Sanguinetti, Barclay) - 3:50
7. Inca Snow (Sanguinetti, Barclay) - 5:15
8. Marabunta (Rizo Patron, Magnet, Sanguinetti) - 10:08
9. Survival (Rizo Patron, Sanguinetti) - 2:20
10. The Revolution (Rizo Patron, Sanguinetti) - 4:26
11. A Beautiful Day (Rizo Patron, Sanguinetti) - 2:30
[ Traffic Sound ]
Manuel Sanguinetti - 1゚Voz, Voces, Percusion (lead vocal, vocals, percussion)
Willy Barclay - 1゚Guitarra, Guitarra Acustica, Coros (lead guitar, acoustic guitar, backing vocals)
Freddy Rizo Patron - Guitarra Ritmica, Guitarra Acustica, Bajo (rhythm guitar, acoustic guitar, bass)
Zulu - Bajo, Organo, Coros (bass, keyboards, backing vocals)
Luis Nevares - Bateria, Vibrafono, Percusion, Coros (drums, vibraphone, percussion, backing vocals)
Jean-Pierre Magnet - Saxo, Clarinete, Flauta, Coros (saxophone, clarinet, flute, backing vocals)

ペルーの素晴らしいロック・バンド、トラフィックサウンドの第4作(初期シングル集『A Bailar Go Go』を編集盤とすればオリジナル・アルバム第3作)で最終作がこの『Lux』になる。バンドは前作『Traffic Sound』1971発表後初めてアルゼンチンとブラジルに重点を置いた国外ツアーを行い、Discos Magとの契約を終えて、よりメジャーのSono Radioに移籍する。ベースと各種キーボードのウィリー・スローンが脱退、ザズーがスローンの後任に加入して制作されたのが本作になる。ザズーはトラフィックサウンド解散後にはソロ・アーティストとして活動した有能な人材だった。
レーベル移籍に伴い、アルバム未収録シングル「La Camita c/w You Got to Be Sure」(MAG 1971 - Sono Radio 1971)、「El Clan Braniff c/w Braniff style - Usa version」(Sono Radio 1971)、「Suavecito c/w Solos」 (Sono Radio 1972)が発売され、「You Got to Be Sure」は『Traffic Sound』のCDボーナス・トラックになっている。「El Clan Braniff」はツアー用の企画シングルなので、「La Camita」と「Suavecito c/w Solos」の3曲はLazarus盤再発CDの『Lux』に追加収録された。オリジナル『Lux』が全10曲仕様なのに3曲追加のCDが11曲仕様なのは、オリジナル盤では「White Deal」「Poco」「Big Deal」が3パートに分かれた3曲にカウントされていたからでもある。「Suavecito」は、サンタナの弟バンドMaloのデビュー・アルバム(72年1月発売)からのいち早いカヴァー・ヴァージョンだった。Lazarus盤CDとオリジナル盤との相違は、冒頭3曲にシングル曲が追加され、3パートの「White Deal, Poco, Big Deal」が1曲扱いになり、アルバム終盤の2曲「A Beautiful Day」と「The Revolution」の順序が異なる。オリジナル盤通りの音源のリンクも引く。
(Italian Reissued "Lux" LP Liner Cover)

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Traffic Sound - Lux (Original 1971 Sono Radio LP Song Order) Full Album : https://youtu.be/Qk3-qYxVRyo
(Side A)
A1. Lux (Sanguinetti, Barclay) - 2:55
A2. El Gusano (Alice in Wormland) (Rizo Patron, Sanguinetti) - 3:57
A3. White Deal (Sanguinetti, Barclay) - 1:45
A4. Poco (Sanguinetti, Barclay) - 1:00
A5. Big Deal (Sanguinetti, Barclay) - 1:11
A6. Inca Snow (Sanguinetti, Barclay) - 5:15
(Side B)
B1. Marabunta (Rizo Patron, Magnet, Sanguinetti) - 10:08
B2. Survival (Rizo Patron, Sanguinetti) - 2:20
B3. A Beautiful Day (Rizo Patron, Sanguinetti) - 2:30
B4. The Revolution (Rizo Patron, Sanguinetti) - 4:26

この通り、オリジナル盤では相当印象の異なるものだった。Lazarus盤以外ではシングル曲を追加しないオリジナル盤の全10曲仕様のCDもある。また、丁寧な編集とマスタリング、詳細な解説で決定版ベスト・アルバムといえるVampi Soul盤コンピレーションの曲目は、
[ Yellow Sea Years: Peruvian Psych-Rock-Soul 1968-71 (Vampi Soul, 2005) ]

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(Side A)
A1. Lux
A2. El Gusano (Alice In Wormland)
A3. La Camita
A4. You Got To Be Sure!
(Side B)
B1. White Deal/Poco/Big Deal
B2. Suavecito
B3. Chicama Way
B4. Those Days Have Gone
(Side C)
C1. Solos
C2. Survival
C3. A Beautiful Day
C4. Marabunta
(Side D)
D1. Yesterday's Game
D2. Sky Pilot
D3. Meshkalina
D4. What You Need And What You Want
D5. Tibet's Suzettes (You Can't Appreciate A Gift From God)
D6. Inca Snow

というもので、CDも同じ曲順の1CD18曲になっている。これをトラフィックサウンドディスコグラフィーと対象すると、
[ Traffic Sound(Peru,1967-1972)Discography ]
(Original Albums)
1. A Bailar Go Go (MaG, 1968) - D2
2. Virgin (MaG, 1969) - D3
3. Traffic Sound (a.k.a. III) (a.k.a. Tibet's Suzettes) (MaG, 1970) - B3,B4,D1,D4,D5
4. Lux (Sono Radio, 1971) - A1,A2,B1,C2,C3,C4,D6
(Original Singles)
Sky Pilot c/w Fire (MaG, 1968) - D2
You Got Me Floating c/w Sueno (MaG, 1968)
I’ m So Glad c/w Destruction (MaG, 1968)
La Camita c/w You Got to Be Sure (MaG, 1971-Sono Radio, 1971) - A3,A4
El Clan Braniff c/w Braniff style - Usa version (Sono Radio, 1971)
Suavecito c/w Solos (Sono Radio, 1972) - B2,C1
となり、後期シングルからのAB面4曲を押さえているのは嬉しいが、アルバム『A Bailar Go Go』(初期シングルAB面6曲)からは1曲、全曲オリジナルの初アルバムで名盤『Virgin』全8曲からは1曲と初期に手薄なのに対し、『Traffic Sound』の全6曲(実際はアルバム末尾に1分半のピアノ曲が隠し曲で入っているが)からはバラード「America」を除く5曲、ラスト・アルバム『Lux』からは「The Revolution」を除く全曲が入っている。つまり『Traffic Sound』と『Lux』から1曲ずつ除いた2in1に『A Bailar Go Go』と『Virgin』から1曲ずつ、後期オリジナル・シングル2枚(4曲)を足したようなもので、CD収録時間ぎりぎりの79分53秒も収録されているから元々短いオリジナル・アルバムの2in1よりもヴォリュームがある。また、トラフィックサウンドには先に、
Traffic Sound 68-69 (Background, 1993) *2in1 CD of? "A Bailar Go Go" & "Virgin"
Greatest Hits (Discos Hispanos, 1998)
の編集盤2種があり、もっと簡略なベスト盤なら1998年盤があるし、初期アルバム2作は1993年盤でまるごと聴ける。
(Original Sono Radio "Lux" LP Gatefold Inner Cover)

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 だがこのバンドの最高のアルバムは『Virgin』なのではないか。『Traffic Sound』と『Lux』は各段にアレンジの密度と演奏力の向上したアルバムだが、『Traffic Sound』ではより同時代の英米ロックに直接の範を取り始めたバンドは、『Lux』ではペルーのバンドとしてのアイデンティティ、オリジナリティではきわどい線まで来ているのではないか、と思われる。その意味では、英米ロックのストレート・カヴァー集でしかない『A Bailar Go Go』がかえって無垢な魅力を放って見えもする。
名盤『Virgin』は、1969年という早い時点で、つい昨日まで英米ロックのカヴァーだけをやっていたペルーのバンドが初めて自分たちならではのオリジナリティを目指してみたもので、その結果生まれたのは英米、または仏独伊日にも似た作例がこの時点ではまだなかったような、サイケデリック・ロックとフォーク・ロックとブルース・ロックから生まれたものながらトラフィックサウンドならではのラテン・ロックと呼ぶ以外ないようなものだった。それはほぼ同時期にデビューしていたメキシコ系アメリカ人バンド、サンタナともまったく違った独創的なラテン・ロックだった。
(Original Sono Radio "Lux" LP Side A & Side B Label)

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 後期トラフィックサウンドカルロス・サンタナの弟ホルヘ・サンタナのバンド、マロのデビュー作からシングル「Suavecito」を素早くカヴァーしているように、アメリカのラテン・ロックやイギリスのプログレッシヴ・ロックハード・ロックなど、トラフィックサウンド自身が『Virgin』で回答を出していたポスト・サイケ/フォーク/ブルース・ロックの新しい70年代ロック・スタイルを延長していくより、英米ロックが進んで行った先についていく方向を選んだ。完璧に独自の世界を1枚のアルバムの中で描いてみせた『Virgin』の画期的なオリジナリティを、バンド自身が気がつかなかったことになる。『Virgin』はどの1曲が欠けても成立しない、ビーチ・ボーイズの『Pet Sounds』とも肩を並べるアルバムだった。ビートルズ以外、こうしたアルバムが内容に値する評価を即座に得られた例は少ない。
もっともセンスは磨かれ、曲作りや編曲、演奏はますます安定したプロらしいバンドになったから、『Traffic Sound』はプログレッシヴなハード・ロックのアルバムとしては『Virgin』より緊密かつ焦点の絞られた力作になり、『Lux』はプログレッシヴ・ロックとラテン・ロックの混合でハード・ロック色は後退したがより柄の大きな作品になった。『Virgin』の第一印象は愛らしい小粒さだから(初期カヴァー曲集『A Bailar Go Go』も同様)、ハードに、または軽快にロックする『Traffic Sound』の「Yesterday's Game」、『Lux』冒頭のタイトル曲や「Survival」、シングル曲「You Got Be Sure」「Solos」や、それぞれアルバムのクライマックスとなるハードなプログレッシヴ・ロック大曲「Chicama Way」(『Traffic Sound』)、「Marabunta」(『Lux』)などは『Virgin』からの確かな進展ではある。『Virgin』の大曲は愛らしい「Yellow Sea Years」で、ドリーミーでサイケなプレ・プログレッシヴ・ロックだったが、あれは唯一無二の味だった。そしてベスト盤のタイトルにもなっているのに、収録されていないのはなぜだろうか。